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7 開校まもない1980年代中頃から、修学旅行は学園の教育を象徴するひとつの要素となっていました。 「訪れたい場所がある生徒が、コースとそこで体験できる内容を学年全体に提案する」「提案が多い場合は投票で3、4コースに行き先をしぼり、それぞれが希望のコースを選ぶ」。そして旅行の段取りのほとんども、生徒が手配してコースをつくっていく——。 体験を通した学びを、生徒たちがつくりあげていく修学旅行の手法は目新しくもあり、教育界でも話題になったといいます。 しかし時代が変化するにつれ、この修学旅行のあり方についても学園の中から疑問の声が出るようになってきました。 まず挙げられるのは「継続性を保つことの困難さ」です。毎年、コースをつくるのはその年の生徒であるため、行き先となる地域と持続的に関係を築くのが難しいことに問題がありました。時間をかけて深みのある学びをつくっていけないことが、次第に行き詰まり感を生んでいったことは否めません。 また、修学旅行の事前事後に学習の時間を設けるものの、通常授業と連続した 学園のある飯能市小岩井地区の生態系をフィールドワークをしながら学ぶ講座ですが、スタディツアーでは亜熱帯の西表島へ。普段暮らしている土地とはかけ離れた場所の生態系を比較することで、自然についてより深く考えることが目的です。 自然を味わうコースは、修学旅行にもありました。しかし、専門的に自然分野を学びたい生徒が、少人数で取り組むスタディツアーは、大人数で取り組む修学旅行の時と比べると、得られる学びの質も異なるとか。大学の授業にたとえるとすれば、大講義室の授業と内容ではないことがほとんどのため、単発的なイベントのようなものになってしまっていたのです。 1コースあたりの人数が多いと、積極的にコースづくりに関わる生徒と、そうではない生徒の温度差が大きくなることも問題になりました。言葉は良くないですが、“連れて行かれるだけ”になっている生徒を生み出してしまう仕組みになってはいないか、懸念する声が生徒たちからも広がっていきました。 また、コース別にばらけてしまうと、それぞれのコースを担当する教員の人数が限られてしまうため、最低限の条件ともいえる安全の確保が困難になることも問題になりました。 そうして「行き先を生徒が選び、生徒が自身の手でつくり上げていく修学旅行」という理想は、少しずつ実体と離れていき、実行委員として修学旅行を引っ張る生徒からも、教員からも修学旅行の在り方を再考する必要があるのではという声が上がるようになりました。 学ぶ旅行「スタディツアー」 そんな状況の中で2016年、学園は高校の修学旅行を終了。その代わりとして翌年から新たに取り組み始めたのが「スタディツアー」です。 スタディツアーとは、簡単に言うと通ゼミの授業の違いと言えるでしょう。 講座を担当する理科の石井さんは、以前は踏み込めなかった現場に、生徒と行けるようになったことを喜んでいます。「西表島には世界有数の多様な生態系がありますが、大人数では行けない場所が多いのです。少人数なら小回りが利くので、より突っ込んだ現場を体験することができますし、なにより、自然や生物の分野を掘り下げたい生徒だけで取り組む旅なので、学びの充実度も違います」。 参加した生徒からも興奮が伝わってきます。「ずっと植物が好きだったのだけど、誰も興味ないだろうと人に話すことはなかった。でも、西表で面白いものにいっぱい出会って衝撃を受けて、人に伝えたいと思うようになった」と語ります。 さらに、西表島の自然に触れて学校に帰ってくると、今度は小岩井の自然の中で、今まで見落としていた姿に気づく生徒が出てくると石井さんは言います。「小岩井は関東の平地の生き物と、山地の生き物がちょうど交わり多様な生態系が形成されているところなのですが、そういう事にも気づく様になるんですよね」。 年度末の学習発表会では、ツアーの報告をする展示を制作します。「どんな展示を作れば、現地で見聞きしたものの感動を伝えられるか?」と考える時間にも、ひときわ熱が入るそうです。年の授業の中で取り組んだ内容を、より深めたり、広げていくための体験旅行のこと。もともと選択講座の授業の一部として行われていたもので、それまでにも「韓国講座」や「林業」などの授業でも実施されていました。いずれも、韓国への短期旅行や、足尾銅山でのフィールドワークなど、現地へ赴くことを前提とした通年の授業です。充実した事前学習、事後学習に取り組め、年間を通した深い学びを得ることができるのが最も大きな利点です。 当時、他にもスタディツアーを行っている選択講座はいくつかありましたが、さらにツアーを行える選択講座を教員に募り、2022年には7つの講座でスタディツアーが催行されました。東北の復興状況を学びに行くものから、西表島の生態系を体感しに行くもの、地域のお祭りに参加することで伝統芸能の学びと結びつけるものまで種類はさまざま。今後も、選択肢は増えていきそうです。 ここからは、スタディツアーを実施している選択講座をいくつか紹介しようと思います。スタディツアーの概要や、得られた学びについて、担当教員の言葉や参加した生徒の感想を含めて紹介していきます。生徒がつくる修学旅行コース制修学旅行の限界地元から西表島に飛ぶ『小岩井生態学』

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