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 ある日ラジオからこんな声が聞こえてきました。 「お料理というものは、人に合わせるのではなく、食材一つひとつにある特性に合わせて調理をする、その時間を楽しむもの」。 ぷくぷくと息をしている――。食堂のパン作りはそんな生きもの「酵母菌」と共にあります。食堂でパンを焼き始めたのは、およそ22年前。パン屋で働いていたことのある方が食堂の仲間に加わったことが、大きなきっかけでした。初めは、ドライイーストを使ってパン作りがスタートしました。安定してパンを作れること、そして作業を短時間で行えるというのは、ドライイーストを使ったパン作りにおける大きなメリットでした。 ところが、短時間で行うパン作りは食堂のリズムには合わなかったのです。やがて、ゆっくりと時間をかけて発酵がすすむ天然酵母でパンを作るようになりました。 「パンが膨らむために必要な時間」を、私たちが「ごはんを作るための時間」として使う。四季が移り変わっていくための時の流れがあるのと同じように、生きているものすべてに共通している「必要な時間」があるのだとその時に実感したのです。その時間が、絶妙にずれたり重なったりしてバランスが取られている「作る時間」が、食堂にはあるのだと思います。 生きた酵母菌はとても気分屋なので、季節やお湯の温度で焼き上がりに差が出てしまうこともしばしばあります。週3、4回見るパンの姿が、毎回違うところもまた面白いです。夜に生地を仕込んで、一晩発酵させて作るオーバーナイトというパン作りの方法を試したこともありました。そうしたら、翌朝あふれ返っていたりもして。要領が分からず生地を作りすぎてしまったり、うまくいかなかったパンをパン粉にしたり。 今でこそ、パンは食堂の定番メニューですが、ここまで来るのにたくさんの試行錯誤がありました。失敗しながらも「作る時間を楽しんできた」、それが食堂のパン作りの原点です。そして、その時間を楽しんでいた先人がこつこつ創り続けてきた場所――。つな ラジオから聞こえてきた「声」と「今」が繋堂と重なった瞬間だったのでした。がり、食14生きているパン生きているパン渡邉さやか(自由の森学園 食生活部)

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