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 「スポーツ選手を育てたいわけではないから、より速く走る必要はない。一生付き合っていく自分の身体への理解を深めていくのが体育」。 自由の森学園では走ることに取り組む走学習の時間でも、とくに希望する生徒以外はタイムを計ることをしません。「自分の心地いいリズムを探ること」を目的としているためだといいます。 生徒として学園に在学していた頃に、担当の教員から受け取ったこの言葉を今でも覚えていると話すのは、卒業生でもある近藤啓さんです。 在学中は、授業に協力的なタイプの生徒ではなかったとのことですが、サッカーの勉強をするべく大学の体育学部に進学。教職課程の勉強をするうちに、教えることの面白さに目覚め、体育教員を志すようになったと語ります。「大学の教職課程で、授業案を自分で作るようになった時、この学校で受けていた授業の面白さに気づきました。身体に向き合い、身体を自分自身で育てていく——。 授業そのものも、教員と生徒のやり取りの中で一緒につくっていくというかたちで進められていたことに、卒業してだいぶ経ってから気づかされました。私はほかの学校の体育を経験していないのですが、そうやって生徒のみんなに働きかけながら、どうやって授業をつくっていくか考えている時間は楽しいですね」。 授業の中で大切にしているのは、卒業後もずっと残っていく身体の見つめ方だと、近藤さんは続けます。「体育の授業で足が速くなったとしても、それそのものが人生の中で役に立つ人は、ごくごく一部かもしれません。でも、そこで向き合って掴んだ感覚が、一生付き合っていく自分の身体に残ればいい。自分も卒業後に体育で得たものに気づいたように、その後の人生でふと思い出すような感覚やキーワードを授業の中にちりばめているつもりです」。 授業で取り組む内容に、目を向けてみましょう。中学・高校ともに1年生のはじめは「頭で立つ逆立ち(三点倒立)」に取り組みます(高校生は腕で立つ「逆立ち」も)。 大切なのは、自分の身体のバランスや重心を感じて考えること。「逆さまに立つバランスを考えることで、生徒からは『普通に立っていることが、いかにすごいことか気づいた』という声も寄せられます」と話すのは、宇都宮和音さん。 「普段は無意識に立っているはずですが、逆立ちするには、重心やバランスを意識せざるを得ない。そこから『電車の中で立っているときに、どこに重心を置いて、どこでバランスを取るか考えるようになった』と教えてくれた生徒もいます。中高生だった頃、私は体育の授業が好きだったのですが、授業で燃え尽きて、はい終わりという関わり方だったので、日常に身体の感覚を持ち帰ることができる授業というのが新鮮でした」。 走学習の時間は、自分のリズムを掴んだ後、リレーで他者とのつながりにも目を向けます。相手にどうバトンを渡すかを考えることで、いかに他者を思いやるか、自分の思いを他者に伝えることを意識するのが狙いだといいます。 「1人で走っている時に自分のリズムを見つけたつもりでも、他者と一緒に走8身体と向き合い掴んだ感覚は、日常に、卒業後にも残っていくもの体育は、スポーツ選手を育てる時間ではない岩下 彩良Iwashita Sara体育科近藤 啓Kondo Hiraku本学園高校を卒業後、東海大学体育学部体育学科へ進学。保育園などでの体育指導を経て、本学園体育科に入職。現在13年目。小学校から継続的にサッカーを楽しんでいる。宮内 麻友美Miyauchi Mayumi体育科一生続く自分の身体との関係近藤 啓Kondo Hiraku体育科逆さまに立つことから立つことのすごさに気づく宇都宮 和音Utsunomiya Kazune体育科高橋 郁光Takahashi Ikumi体育科

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