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強い人だけが「いい表現」をできる訳ではない。繊細なものをいだく人にこそできる表現が、必ずある。梶原 阿貴さん〈5期生〉1973年東京都生まれ。自由の森学園高等学校在学中、映画『櫻の園』で俳優デビュー。卒業後も俳優としての活動を続け、主な出演作に大林宣彦監督『青春デンデケデケデケ』、タナダユキ監督『ふがいない僕は空を見た』など。脚本家に転身し、『名探偵コナン』や『ゴルゴ13』といったアニメーション作品をはじめ、2019年には映画『WALKING MAN』でオリジナル脚本を手がけた。2022年には同じくオリジナル脚本の『夜明けまでバス停で』と『空のない世界から』の2作が劇場公開された。とは関係ないところで圧力をかけられて、やめてしまう人もたくさん見てきました。私は、「勝ち残る」強い人だけが、いい表現をできる訳ではないと思っているんです。繊細なものをいだく人にこそできる表現が必ずある——。 映画が好きだからこそ、立場の弱い若い人たちまで、誰もに優しくある映画界であって欲しいと思っています。 そんなことを語っておきながら、かくいう私もつい「強者の思考」になりがちなところがあるんです。私ができることは、みんなできるだろうと思ってしまい、それができない人に対して反射的に「努力が足りないんじゃないか」と、感じてしまうところがある。そういうものに抗っているというのに、まったく矛盾していますよね。 だから、常に自分を疑っているんです。強者の思考が現れたら気づけるように、自分を見張っています。強者の思考が現れては「おっと、いけない!」と頭の中から消して、また現れたら消して、という繰り返し。「うわー、私ダメだなー!」と、いつも悩んでいます。 現在、大学で講師もしているのですが、「私の授業大丈夫だった? なんか嫌じゃなかった?」って、無記名でコメントできる紙とか作って、学生に聞いちゃうんです。 あるとき、「先生は、そう思ってくれている時点で大丈夫ですよ」って、優しい言葉をかけてくれる学生がいてホッとしたのですが、いやいや、これからも気は抜けません。1313矛盾と生きていく

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