morinoat_39
10/16

を上げるのか、そのためには自分の身体をどう使うか? と他者との関係が自分の身体にかえってくる。ありふれた教材かもしれませんが、この学校らしい取り組み方ができていると思います」。 授業の中で、得点を競い合うことはほとんどなく、ラリーが続きボールがつながる気持ち良さを味わうことに主眼が置かれています。勝ち負けを競うと、「ボールのつながりをいかに断ち切るか」という方向にいってしまうので、本来の狙いから外れてしまうためです。 「ただ、もう少しチームで取り組むような教材もあるといいなと思っています」と語るのは近藤さん。現状では、個人として自分の身体に向き合う時間が長いため、もう少し他者と協力しながら取り組める種目も模索しているとのこと。近年では、インドの国技である「カバディ」を授業に採り入れたこともありました。手をつないで、ずっと声を出している競技ゆえ、コロナ禍の現在は見合わせているそうですが、今後の復活も検討しているそうです。 最後に、教員の皆さんが大切にしていること、中高6年間、または高校3年間の学習を通して、生徒たちに手にしてもらいたいものについて聞きました。 「授業の中で、できないことは『できない』、分からないことは『分からない』と言うようにしています」と話すのは、高橋さん。「教員がすべて知っていて、それを伝えるだけの授業だと、生徒たちは気づいたことがあっても『教員は知っているだろう』と先読みして発言してく10れなくなってしまう。分からないと正直に伝えることで、心を開いて言いたいことを言ってくれます。その中で、新たな気づきが得られることも多いので、その点は気をつけています」。 「生徒に頼るようにしているんです」と言うのは岩下さん。「以前は、教員は全部を教えなければいけない、絶対の存在だと思っていたのですが、生徒たちに頼ることで、生徒たちも頼りにしてくれるようになったと感じています。教員という立場ですが、教えられることが多く、毎回が自分の学びでもあります」。 「授業をつくるという意識は、どの生徒も持っているので、誰もが安心して参加できる空間をつくることを心がけています」と語る宇都宮さん。「安心できないと、自分の身体に向き合うこともできませんし、新しいことにチャレンジもできないですから。あとは自分の身体に関心を持ち続けてほしいと思っています。大人になって、身体に無関心になると拠り所がなくなったり、上手くいかなくなることも多いと思うんですよ」。 宮内さんは、「今」の身体と向き合うことを大切にしたいとのこと。「会話の中で、その日の体調や気持ちの状態を聞くようにしています。無理して『やらなきゃ』とは思ってほしくない。自分から『やってみようかな』と思える心地いい空間を皆でつくれたらと思っています。そんな中から、卒業後も『あのとき、こういうことやったな』と、自分の身体に返ってくるものがあればいいなと」。 「魅力的な問いを準備しておくことでしょうか——」と近藤さん。「そのためには、教員である私たちが、日頃から身体を通して自分に問いかけていることが大切だと思っています。そうすることでまた新たな問いが見つかったりする。その繰り返しが楽しいですね。一生付き合う自分の身体なので、そういう感覚が少しでも生徒たちの中に残ってくれればと思っています」。 一人ひとりが自分の心と身体の関わり合いを見つけていく体育。そんな、替えの利かない「自分の身体」と真正面から向き合う時間の先には、同時にその身体を持ったもの同士が、どう関わり合っていくべきなのかを見つめる時間がありました。 その行為のもう一歩先を見つめるとしたら、それは替えの利かない「自分自身」で、この「世界」をどう生きていこうとするのか、広く見つめることにつながっているのかもしれません。授業の中で大切にしていること岩下 彩良Iwashita Sara日本女子体育大学を卒業後、2021年より本学園体育科に入職して、現在2年目。中学、高校ではサッカー部と卓球部、大学時代は少林寺拳法部に所属。

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る