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異なる考えを受けとめる経験はどんどん大事になってきました。 したがって、入試といえど通常とまったく変わらない授業が行われます。ある年の高校の社会科の授業入試では、貧困、差別、税金、給料、働き方などを題材に、身近でありながら深刻化している現状を見つめる授業が行われました。課題を共有してグループで討論し、どんな解決への道があるのか、一人ひとりが自分の言葉でつづります。正解のない課題に対し、一般論ではなく主語を「私」にして考える授業です。 「しかし、これは発言の積極性を見る入試ではありませんよ」と語るのは、社会科教員の猩々紘怜さん。 「大事にしているのは目の前の情報を知り、さまざまな意見に触れたうえで、自分自身の意見を述べたり文章にまとめることです。自分の欲しい情報だけが偏って入ってくる今の時代、異なる考えを受けとめる経験は以前よりも大切。社会的な課題を共に考え、変えていこうとする人と授業をつくっていければと思っています」。 一方、多様なものの見方や、その中で自分の視点を持つことを描画で体験できるのが美術科の授業入試です。 「世の中がいろいろな表現でできていることに気づく授業にしたいと思っています。同じものを見ても人によって着眼点が異なることや、自分らしい視点が発見できるような時間をめざしています」。 そう語る美術科教員の岡田リマさんが選ぶモチーフは、“ひとひねり”ある10ものが多い様子。過去にあったのは丸ごとのキンメダイ、イカ、ドラゴンフルーツなど。フレッシュなものが1人1点ずつ配られます。昔はかごに入った鶏をモチーフに出したこともあったとか。「受験生の予想を裏切りたい気持ちがあります。りんごや野菜などの静物はありきたりでつまらない。『なんでイカを描くの!?』という驚きから試験を始めてほしい」。 再現性やスピードは、とくに求めておらず、美術予備校に通っている子どもが有利とはならないといいます。 「大人も子どもも、表現活動って『うまい人じゃないとやってはいけない』と思いこんでいる人って、案外と多いのではないでしょうか。見たとおりに忠実に描かないといけないとか。でもテクニックよりも素直にモチーフと向きあう時間を楽しみ、自分の感じたままを描いてほしい。最後に感想文も書きます。自分がどういう視点で対象を捉えたのか、言語化することも大切な時間です。100分以上、たっぷり時間をかけて対象と格闘できるみんなと出会えたらうれしいですね」。 過去、自由の森学園の入試スタイルは、様々な試みを経て今の姿になっていますが、どんな時代でも必ず実施したのが「面接」です。 「最近は面接をなくして筆記試験だけで判断する私立校が増えています。点数だけで客観的な評価をしようということなんでしょうか。私たちは、子「うまい」とかはなくて大丈夫。驚きから、試験に取り組んでもらいたいですね。どもの顔を見てその子の話を聞くということは、いつの時代も変わらず大事な出会い方のひとつだと思っています」と語るのは高校校長の菅間正道さん。 「志望理由や学園に対する思いなど、一般的に面接で聞きそうな質問も一応しますけど」という前置きがありつつも、「一人ひとりが体験として持っている、それぞれの自分の話を聞いてみたい」と言います。 ただ君が考えたことや感じたことの話が聞きたいし、他の考えを持つ人のことや学園のことをどう思ったか知りたい——。そういう関わり合いの営みが、自由の森の本質でもあるし、それが入試に欠かせないことなのでしょう。「言い換えれば、学び、学ばれてどんな化学反応が始まるか、実はそれが楽しみでもあるんですよ」。 薄切りスライスのように、学校が偏差値で細かくランキングされている、現代日本の学校事情。ペーパーテストによって序列化される現状は、子どもたちが自分の優劣を内面化してしまうことも危惧されています。「自由の森学園は、多様な人が交わる交差点のような場所」と、菅間さん。 学び、学ばれてどんな化学反応が始まるのか——。 それを、生徒に限らず教員も楽しんでいる場です。入学試験は、そんな学園に吹く風に少しでも触れてもらえる場になったら。そして、もし互いにもっと話をしたいと思えるようだったら、一緒に学びを深めていかないか、と語りかける場にしていきたいという思いが伝わってきました。化学反応!学園の姿を伝え、「一緒に学びを深めていかないか」と語りかける出会いの場として自分だけの視点を発見する描画する時間の中で【授業入試・美術科】【面接】一人ひとりの自分語りに耳を傾けて人が人と出会うことに真剣に、じっくりと

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