morinoat_34
9/16

【選択講座 政治・経済演習】「政治・経済」の授業では、全員が意見を出し合い、その理由や根拠などに耳を傾け合いながら議論を深める。“結論”を出すことを目的とせず、どちらが勝った・負けたということでもない状況は、お互いの意見を傾聴するという場への信頼感がカギだ。たとえば「ポルトガル語」たとえば「ジェンダー研究」 教員の側が興味・関心を持っている分野から授業に発展するというパターンも少なくありません。今年から「ポルトガル語」の選択講座を持つようになった前出さんは英語科の教員。ただ、自身がブラジルのサンパウロで7年間暮らしていた経験から、ポルトガル語も教えたいという思いを持っていました。 「サンバの講座が人気ですし、ポルトガル語に興味がある生徒もいるのではないかと思いました。私自身がブラジルが大好きで、特に現地の人たちとの交流が楽しかったという思いがあるので、単語の意味や文法だけでなく現地の文化なども含めて“使って楽しい”言語としてのポルトガル語を伝えていければと考えています」(前出さん)。 ポルトガル語は、英語と似ている部分があり、英語学習にも役立つ部分があるとか。また、移民国家であるブラジルは、文法的に正しくなくても話に耳を傾けてくれる人が多く、意思を伝えるためのツールとして言語を捉えているとのこと。「日本には日系ブラジル人のコミュニティも多くあります。ゆくゆくはそこの人たちと生徒の交流の場などもつくりたい」と話すように、“使える”言語としてのポルトガル語を目指しています。 「ジェンダー研究」も、担当の長谷川さんの思いから生まれた講座。人間生活科の教員として教壇に立ちながら「これからの社会を生きていくためには、ジェンダーについての知識は不可欠」と感じていたとのことで、5年前に講座を立ち上げました。 「ジェンダーというと、女性が差別されていて……という文脈で語られることが多いですが、性別規範に縛られているのは実は男性のほうだったりします。ですので、私の授業では『男性って大変だよね』というところから話を始めます」(長谷川さん)。 男性のほうが自殺率が高かったり、長時間労働の割合も多いというデータを示すと、ジェンダーは女性だけの問題ではなく、この社会に生きるすべての人に関わるものであり、誰もがより自由に生きるために考えなければならない問題であると気付く生徒も多いとのこと。近年、話題になることも多いセクシャルマイノリティについても、できるだけ当事者の視点で考えることを目指しています。 「生徒の中に当事者がいる場合もありますし、教員が教えるというより生徒同士や、生徒が親に伝えたりできるようになるといいなと思っています。人に伝えようとすると、自身の中でも整理ができますから。そういう意味で、授業の最後はロールプレイで人に伝えるような内容にしています」。 開講当時は6人だった受講者も今年度は44人が集まるまでに。1年生のときに選択し、学年が進んでも選択し続けるリピーターも多いようです。たとえば「政治・経済演習」 ユニークな講座が注目されがちですが、「より深く学びたい」と考える生徒の思いに応える講座も存在します。「政治・経済演習」は社会科の授業をよりフォーカスした内容。高3を対象としていることもあり、立憲主義や平等権、社会権などについて、より突っ込んだ議論が交わされています。コンセプトは「知って、考えて、議論する」。基本的な知識を得た後は、それぞれ自由に意見を出し合い議論を重ねていくことでさらに考えを深めていきます。 担当教員の菅間さんは「議論が二者択一にならないように、賛成・反対の他にノーアンサーという項目を設けて、参加者には必ず手を挙げてもらうようにしています」と話します。「議論は多数決ではないので、必ず少数意見から耳を傾けるようにして、ノーアンサーの生徒にも何が決めかねているポイントなのかを聞きます。簡単に答えが出ない問題を、ああでもない、こうでもないと議論を深めていくことを目指しています」。 政治的なテーマを扱うと、ともすれば「偏っている」と批判が寄せられそうですが、そうしたクレームは一度もないとのこと。「そもそも、個人の意見は偏っていて当たり前。両者の意見を聞いてその間をとることが“中立”でもない。異なる意見にも耳を傾けて議論を重ねることが、豊かな市民社会のベースになるものだと考えています」。 授業を進めていく中で感じることは、議論をする上で前提となる“お互いの意見を聞き合う”という土壌が生徒たちの中で育まれているということ。この年頃の高校生は、本音で真面目な意見を言うことに気恥ずかしさを感じてしまう場面もありそうですが、自身の考えがまとまっていなくても、それを言葉にして口に出すことに抵抗は感じていない様子。「自分の意見を言っても耳を傾けてもらえるという“場に対する信頼”が普段の授業から培われているのだと思います」と菅間さんは言葉を続けます。 生徒の中で“問いが持続していくこと”を目指しているため、結論を出すことを目的にはしていません。99教員の関心分野から生まれた講座もより深い学びに到達できる場

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る