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薪をくべる毎日の中で受け取る、社会を、自然を見つめる新たなまなざし99所向けにバイオマスボイラーの導入を手掛けてきたその道のプロフェッショナルです。 「ガスや重油のボイラーは、着火してすぐにお湯を沸かすことができますが、薪を燃やすボイラーの場合、火をつけてからお湯を沸かせるようなエネルギーが得られるようになるまでに時間がかかります。温泉施設などでは、従業員の方が朝から火をつけて管理を続けられますが、学校という環境で、それも生徒さんたちの手で火を管理するとなると、付きっきりというわけにはいかないので、その点も考慮してシステム案を作りました」(菅野さん)。 構築されたシステムは、お昼休み中に生徒たちが薪をくべて着火し、ボイラーのエネルギーを蓄熱タンクに「お湯」として貯めておき、その熱を使って「給湯するお湯を温める」というもの【図1】。薪を焚いていない時間でも、蓄熱タンクに高温のお湯が残っているので、長時間にわたってお風呂にお湯を供給することができます。薪ボイラーにこだわった理由 バイオマスボイラーには木材をチップやペレットの形で供給するものもありますが、鬼沢理事長がこだわったのは「薪をくべて燃やす」という方式。生徒たちが自らの手で薪をくべて、自分たちが使うエネルギーを得るという体験から、いろいろなものを受け取ってもらいたいと考えたからです。 「今、多くの子どもたちが火から遠ざけられた生活をしています。火は、長らく人間の暮らしの近くにあった、自然から拝借するエネルギーのひとつ。火と人間の間には、切っても切れない関係があるのではないでしょうか。学園の周りは森林が多いですし、木を燃やして自分たちが使うお湯や暖房のエネルギーを得るという体験を通して、地球環境の問題や、間伐材が利用できずに森林が適切に管理されていない問題についても学んでもらいたい。そのために薪で燃やすボイラーが最適だと考えました」(鬼沢理事長)。 「私たちの時代は、薪で風呂を沸かすのは当たり前で、それは子どもの仕事でした」と、鴇田さんも言葉を続けます。「ただ薪を放り込んで火をつけるだけだと、煙ばっかり出てぜんぜん燃えません。それが上手く燃やすと、少ない薪で風呂を沸かせて温かいお湯が長持ちすることもあります。蛇口をひねれば当たり前にお湯が出るという現代の家では、決してできない体験ができるはずです」。 着火にコツが必要なことや、上手く燃やすと少量の薪で熱を長持ちさせられるという点は、今回導入される薪ボイラーも同じです。火の管理が上手くできれば、朝までお湯が温かいままキープできる。もしかしたら、現在は入浴時間が夜だけに限られている寮で、朝風呂も可能になるかもしれません。使うお湯の量を予測して燃やさなければならないという点で、生徒たちは自分たちの生活スタイルを見直すきっかけにもなりそうです。 薪ボイラーの導入で、従来の重油ボイラーと比べて年間で約98トンのCO₂削減効果を見込んでいますが、こうした効果も薪の燃やし方によって変動するとのこと。「その効果を目で確認できるように、お湯の温度や残量、薪から供給される熱量の推移グラフもモニターで見られるようにしています。数値になると、意欲につながりやすいでしょうし、自分たちの暮らしと地域の環境を考える機会も増えるのではないでしょうか」と話すのは菅野さん。安全に関わるマニュアルなどの作成も進めています。飯能木質バイオマスエネルギー協議会会員。株式会社森のエネルギー研究所取締役。東京大学大学院農学生命科学研究科修士前期課程修了後、持続可能な社会を目指したバイオマス活用システムをつくる「株式会社森のエネルギー研究所」に入社。今回のバイオマスボイラー導入にあたって主にシステム運用の検討を行った。人生の目標を「日本の一次エネルギー消費量の10%を国産木質バイオマスでまかなえる社会を創る」ことと語る。菅かん野の 明あき芳よし さん供給される熱量、各タンクの温度やお湯の残量などのステータスは、常時モニタリングできる。いつ頃薪をくべるべきかタイミングを図るために、デジタルの力も活用する。【図1】薪を焚いて(❶)できたお湯を利用して、蓄熱タンクで熱をお湯の状態で蓄える(❷)。そのお湯の熱を、実際に暖房・お風呂に使う貯湯タンクの水に移すことで(❸)、各寮に使うお湯が作られる。

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