13何かを大きく動かしていく中では聞こえなくなってしまう、繊細な世界を大切にしたい 意外と、みんなで何かをするのも好きだったんですよ。それでもふと「ひとりになりたい!」と思うことがよくあったのを覚えています。そんなとき、本はひとりだけの世界で自由にいられるので欠かせない存在でした。 自由の森学園にいた中学生時代、よく足を運んでいたのは図書館です。司書の大江さんが「こういうのは興味ある?」「これ好きかもよ」と、さりげなく進めてくれた本がどれもおもしろくて。私と本の新たな結びつきを作ってくれていたように思います。原点は繊細な世界に 大学では国際系の学科を専攻していたので、学友の多くがいわゆるグローバル企業のような会社を選んで就職していました。私はというと、そういう場所でバリバリ働くイメージができなかった。何かを大きく動かしていく中では聞こえなくなってしまう、繊細な世界を丁寧に扱う仕事をしたいと思い、本に携わる仕事を選びました。 出版社に勤める事ができたのは、偶然が重なった結果だと思っています。なので、今、自分が本を作る側にいるという事は、少し前だったら考えられない事ですね。でも、本や紙芝居を作る時間の中で、私は自分の原点に戻ってきた感じがしています。やがて誰かの特別な1冊になるものを 昔好きだった本は、今読んでもその時の楽しい気持ちが蘇ってきます。でも子どもの頃に読んだ本を、いま初めて読んだとしたら、きっと同じ感覚では読めません。その時にしか得られないものがあると思うんです。だからこの仕事で頼りにしているのは、今の私の感覚ではなくて、「あの頃の私」が楽しいと感じた感覚です。 でも、本当に私が「楽しい」と思ったことを、子どもたちも同じように感じてくれるのだろうか、という不安がいつもあります。なので、「大好きです!」っていう感想の手紙が会社に届くと、やったー! 響いてる子がいるぞ! ってホッとしています。 本棚に並んでいるだけで嬉しい、そんなふうに思ってもらえる本になるように、表紙や、本のサイズ、書体など、物語から離れたところでも、読者に喜んでもらえるよう工夫しています。本はご両親が買ってあげることが多いかもしれませんが、子どもたちが自分のおこづかいで買える、手の届く価格というのも大切にしています。 私が作った本を今の子どもたちが読んでくれて、数十年後、大人になっても「あの本よかったな」って思い出してもらえるものになっていったら、本当に嬉しいですね。小金澤 基(もと)さん〈23期生〉1991年埼玉県生まれ。自由の森学園高等学校卒業後、立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部入学。国際社会の様々な分野を横断的に学ぶ。卒業後、「人と関わりながら何かを作る仕事をしたい」という思いから、幼少期より常に身近にあった本を作る仕事を志し、「株式会社童心社」に入社。現在、子ども向けの本と紙芝居の企画や編集を担当している。最近関わった紙芝居に「三月十日のやくそく」、本に「カラスのいいぶん」「ちこくのりゆう」がある。
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