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8自由画教育の系譜 学園が表現活動を重視する理由を、創設者で初代学園長の遠藤豊はこのように語っています。「生徒が自らの表現に取り組むことができるようにすることで、一人ひとりの生徒の心とからだを解放し、しなやかな鋭い感性を育み、感動を豊かにする能力を育てることをこのうえなく大切なものと考えているからです」。遠藤は前任の明星学園でも「芸術による教育を重視し、表現活動を充実させて感動を豊かにする能力を育てる」ことを教育方針にしていました。 そのために自由画教育運動(※1)の流れをくみ、美術教育の民主的な発展をめざす「新しい絵の会」に携わっていた井出則雄、生徒の主体的な表現活動を重んじ、創造的な学校づくりで知られた山梨県巨摩中学校の久保島信保などを招いて学びの質を高める努力を惜しみませんでした。その姿勢を自由の森学園にも根づかせたのです。日常を見直す絵画体験 そんな高い理想のもとで始まった美術科のカリキュラム。染織では校内に生えている植物なども原料にして、羊毛を染め上げ、糸につむぎ、マフラーなどを時間をかけてかたちづくっていきます。 木工は大きな丸太を切り出すところから始め、器や椅子などの作品に仕上げます。いずれも自然の素材にふれ、素材の質感や匂い、工具の反応すらも楽しみながら、身体ごと向かっていくダイナミックな学びです。 絵画の主な課題は、中学では1年次に折込広告の模写、2年次に枯れたひまわりを水彩で描く、3年次に学園の人間模様を描写するなどバラエティ豊か。高校になるとひとつの作品に1年かけてじっくり取り組み、1年次に自分の目、2年次に身近な人をモチーフに描きます。 高校全学年共通の選択講座「土曜美術」では、「生きる」をテーマに染織や工芸の技法も包含する集大成となる作品づくりが待っています。 それぞれの課題には教員が込めた深い想いがあります。川上さんは「日常を見直すというか、自分が当たり前と思っているものから新しいものを発見してもらえたら」と語ります。 「たとえば高校1年生で描く自分の目。いつも見ていると思っていた目は、目じゃなくてまぶただったりするし、メイクしている女子なら、なおさら。毎日見ているはずなのに、あれ、こうだったんだ!? と気づくことがあります。慣れきった世界から、もう一度無垢な子どもに戻るような体験を大事にしたいんです。その視点を持つ体験を通過すると、他の教科の学びにも新たな視点を持って臨めると思うんです」。 岡田さんは「土曜美術では、すでに学んだ染織や陶芸などの多様な技法をミックスして表現できるようにしました。作品はコンセプトの説明を添えて美術棟のギャラリーフロアに展示します。自由にモノづくりができる喜びと、非日常的な空間に置かれることで作品の新たな魅力が見える感動を味わってほしいですね」。 自分の表現を見つけるために、生徒には「言語化」を求めるといいます。なぜこの色を選び、この構図を選んだのかをかなりつっこんで尋ねます。 「対話を通じて、生徒が自分のセンスに気づいてもらえればと思って。なにが好きで、どういうことに興味を持っているのか。センスを養うという訳ではなく、自分が好む感覚に気づくことが大切です。絵画室という同じ空間で同じことを共有しながら、さまざまな感覚と出会うことも成長の刺激になります。クラスづくりにも結びつく体験ですね」。※1 自由画教育運動/子どもの見たまま感じたままを自由に表現させた絵画。大正デモクラシー運動の一環として生じた児童画における芸術教育運動のひとつで、没個性的な模写による美術教育に対し、児童の個性と創造性の開発をねらう山本鼎によって提唱された。

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