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10美術科は中学1年から高校2年までの全生徒に同じ課題を求めます。テーマは「生きる」。技法や画材を問わず生徒ひとりひとりが考える「生きる」を自由に表現します。自分が生きる。人間が生きる。生き物が生きる。地球が生きる。さまざまな主語を当てはめることができる壮大なテーマです。入学して間もない生徒たちは相当迷ったはずです。 中学1年のある生徒は毎日の感情を1日1枚のカードにしました。この高度に抽象化された日記は大きな紙にまとめて貼り付けられ、休校期間中の自分を俯瞰できるようになっています。 別の生徒は折り紙をちぎって握手を表現しました。ソーシャルディスタンスが叫ばれる時代に握手は非日常的なものとなり、その絵はさまざまな問いを投げかけてきます。生徒が夢中になる試みをこれからも 専任の皆さんは、生徒たちの実践を「ぜひ多くの人に見にきてほしい」と声を揃えます。 「作品には悩みや迷い、諦めなど、制作中に起きた心の揺らぎまで結実しています。その過程はずっと心に残るもの。鑑賞することを通して、作者が制作する中で過ごした時間をともに感じてもらえれば。高校を卒業したら二度と絵を描かないかもしれない生徒にも、描いてよかったと思える経験をさせてあげたい。人の心を打つ表現は、技術力の優劣だけでは語れないですよ」(田上さん)。 「おもしろい試みをやろうというスタンスはこれからも変わりません。ぜひ学習発表会や公開研究会の機会に生徒たちの作品に会いにきてください。そしてご意見をお聞かせください」(岡田さん)。「できれば制作中の生徒の姿や表情も見てもらいたいなと思いますね。作品に集中している時って、教員が声をかけられないぐらい迫力みたいなものがあって圧倒されます」(川上さん)。 全国的に、小学校から中学校へ移行する際、美術への苦手意識が顕著に増加する傾向があるとのレポートもあります(※3)。美術科の取り組みには、この負の傾向に大きな風穴を開ける新鮮な学びと表現を、これからも期待したいところです。卒業したら二度と絵を描かないかもしれない生徒にも「描いてよかった」と思える体験を明星学園高等学校卒業後、1985年より自由の森学園の寮監助手として寮運営に携わる。89年に武蔵野美術大学造形学部油絵科を卒業。美術科専任教員に。92年に深大寺近くの農家に咲くひまわりに圧倒されたことを機に、枯れゆくひまわりを画題に。当時の公開教育研究会で、大きな反響を得た。田上 麦文2003年、自由の森学園高等学校卒業後、沖縄県立芸術大学美術工芸学部デザイン工芸学科へ進学。工芸専攻で陶芸を学ぶ。09年より学園の美術科非常勤講師。18年に専任教員。今年は大阪のLUVONICAL frower works (11月20~22日)、阪急うめだ本店(12月9~15日)などに出品。岡田 リマ2000年、自由の森学園高等学校卒業後、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科入学。美術予備校講師、都内私立校の非常勤講師を経て、17年より自由の森学園美術科専任教員。高校時代から熱気球を製作しており、大学の卒業制作で作った作品は、川俣正賞を受賞。オランダに滞在して熱気球を製作したことも。川上 史也※3 「図画工作・美術への〔意欲〕・〔苦手意識〕の実態と考察―児童・生徒・大学生への実態調査結果から―」(降簱 孝/2015年)

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