morinoat_29
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12度の知識と装備は必要ですが、スポーツなのに他者への劣等感が極めて低く、多くの人が有能感を得られる感覚に惹かれていきました。高校卒業時には「山に囲まれている」という理由で山梨県の都留文科大学に進学。僕の生き方と山が切り離せないものになっていきました。それぞれの気持ちを尊重する 登山ガイドと並行して、プロジェクトアドベンチャー(以下PA)という野外教育手法を軸とした体験学習のファシリテーターとして、企業の社員研修や学校教育の一端にも携わっています。さまざまなアクティビティを利用して、各集団におけるコミュニケーションのあり方や関係性について探求するお手伝いをしています。 PAでは「チャレンジ バイ チョイス」といって、挑戦するかしないか、そのレベルや方法などはその人自身が選択する、という考え方があります。 「仲間に話しかけてみる」「違和感を伝えてみる」とか、どんなに小さなチャレンジでも一人ひとりの選択や行動を尊重します。例えば、輪に入らずにずっとスマホを触っている子がいても、活動に参加しないことをとがめるのではなく、「みんなと同じ場にいること自体がその子にとってのチャレンジなんだ」と受け止めるように意識していきます。 登山においても「より『らしく』」というコンセプトを掲げています。道案内と安全管理、自然解説や登山技術の伝達あたりが一般的なガイディング業務ですが、加えて、人が前向きに生きるキッカケの場としての登山体験を、サポートできたらという願いがあります。 というのも、以前富士山登山で親子が参加していて、中学生のお母さんがある気づきを得ていました。ふだん引きこもりがちな子が自分の前をどんどん歩くのを見て、「自分はもうこの子を手放していいんだ。私が心配し過ぎたんだ」というのです。山登りのポテンシャルを感じた瞬間でした。 どこに登るかも大事ですが、どんな気持ちで登るのか、を尊重しながらサポートしていきたい。従来の概念を超える新たなガイディングができないか模索中です。山歩きで喜ぶ人がいればどんな対象でも 実は僕の父も、さまざまな身体的理由で「歩くこと」に日々チャレンジしています。山登りまではできないけど、自分の好きなお寺めぐりをしたいとの願いから、山間のアップダウンの多い秩父札所巡りに同行し、一昨年結願。昨年から坂東札所巡りに帯同しています。父との時間を過ごすなかで、登山ガイドが存在する意味を改めて問い直しています。 効率化や利便性の向上、そして高齢化した現代社会において「歩く」というシンプルな行為はとても贅沢で、高い価値を持っています。なぜなら、時間的にも身体的にも「歩くことが困難」な人が増えていると感じるからです。例えば、リハビリテーション中の患者さんらと歩ける喜びや登頂した喜びを分かち合う、そんな領域にも関心ありますね。 ぜひ、山に登りましょう。日本の自然はいついかなる時も美しいですよ。「ただ歩く」というシンプルな行為はとても贅沢で、高い価値を持っていると思いますプロジェクトアドベンチャーは、さまざまな「気づき」を経て成長をめざす体験型のプログラム。主に企業や学校で、個人やグループの力を高める目的で応用されている。「多くの人にとってチャレンジングな雪山ですが、訪れると息をのむような真っ白な世界が待っています。世界有数の多雪地帯日本で、雪と戯れない理由はないですよ」と、河野さんは語る。

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