55ンと作らなきゃ」じゃなくて、「キチンと作らないと終われない」という、当たり前に100%のスタンス。 私はといえば、スプーンの先の曲線をコンマ何ミリで作り分けて口触りを検証している現場で「え? 全部一緒じゃん?」とかいって怒られたりしています。オーダーの家具など、依頼主の方にお届けするまで小さな傷のひとつでも絶対につけてはならないというポリシーがあるので、工房にオーダー品が置いてある時はいつも恐る恐る行動していますよ。豊かな手触りを通して受け継がれていくモノ 合板などで安く作った木製品が市場に出回っている今、前島商店が作る商品を少々高いと感じる方は多いと思います。素材から仕上げのオイルまで良質なものを使っていますし、かなり時間をかけているので、実はそれほど利益は上がっていないというのが本当のところ。実は「お値段以上」です。 再会したての頃、彼の作る見事に仕上げられた作品を見て、「今流行っているのは、アンティークだよ。そういうの作ってみれば?」と、呑気に言っちゃったんですけど、今思えばなんと的外れなことを言っていたのかと。 やがて、「彼はアンティークとなるものの始まりを作っているんだ」と気づきました。手にした人の人生に寄り添いながら、時をまとった味わいのある作品になり、そして次の時代を生きる人に、さらにその次の時代を生きる人に受け継がれていく。そんな手触りや存在そのものを通して、人をつなげていくものを作っているんだなって。出産について思うこと 現在はその「前島商店」を手伝いながら、3人の子どもを育てています。実は、下の2人は自宅で出産しました。助産師さんもいない、家族で産む「プライベート出産」です。 1人目を病院で出産した時の医師との相性があまりにも良くなくて。一般的に、病院で産むのが正しい出産だと思われていますが、もう病院では産みたくないなと思うようになったのです。 田舎では病院に行くのにもとても時間がかかって、むしろ負担になる面もあります。赤ちゃんが産まれる時は、万が一ということがあるのは承知のうえです。それもひっくるめて自分で産みたいと思った。母体である私がリラックスしていることが、いいお産につながるんじゃないかと考えたんです。 結果として、私にはとても合っていましたよ。「産まれそうだな」と思ったら用意をして、産まれたらへその緒を切って。次の日、目を覚ましたら家にただ家族がひとり増えてるという。なんというか、とても自然なんです。 そういえば、2人目の出産を控えた時に父が「手狭になるから増築しなきゃ」と言って、急に壁をぶち抜きました。作ったばかりの壁も簡単にぶち抜く父。そこには優しさがあるんだな、と思いました。でも、赤ちゃんが産まれた時に壁がないのはちょっと困るな、とも思いましたけど。キチンとが当たり前 前島商店では、オーダーメイドの大きな家具から、カッティングボード、動物をモチーフにしたパズルまで、さまざまなものを作っています。我がパートナーながら、すごい職人です。「キチ暮らしを豊かにする「嘘のないモノづくり」を支えながら前島 野原さん(16期生) 1984年北海道生まれ。自由の森学園高等学校卒業後、アジア各地を巡ったのちに、東京でタイ料理店、カフェに勤務。その後、実家のある北海道新得町にてセルフビルドで家を建て、同じく自由の森学園の卒業生である2つ年下の友人、拓也さんと結婚。子育てをしながら、木工作品を製造販売する「前島商店」の経営を支えて日々を過ごす。前島商店 オンラインショップ http://0001.handcrafted.jp
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