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7農村のリーダーを育てる国際機関 東北新幹線の那須塩原駅から車で20分ほど。観光客でにぎわう高原エリアの南側は扇状地となっており、明治期の那須疏水開削によって拓かれた田園が広がっています。その穏やかな風景の中を走り抜け、森をくぐったところにアジア学院はあります。 アジア学院は公正で平和な社会実現をめざし発展途上国の農村指導者を養成する国際機関として1973年に発足しました。アジア、アフリカ、太平洋諸国など58か国から学生が集い、共同生活をしながら座学や実際の農場運営を通してリーダーシップを養います。 なぜ農村にフォーカスするのか。その理由をアテンド役の山下さんが話してくれました。「農村は、どうしても生活基盤が弱いところが多いからなんです。教ひとりの学生の学びを、その背後にいる農村の人々に伝えるのがゴール命を食べる経験から学びを深める 学びの柱となるのが、命とそれを支える食べものを大切にする生活です。アジア学院では独自の言葉で「フードライフ」と呼んでいます。有機農業による自給自足を実践しており、2.5ヘクタールの畑で約100種類の野菜を無農薬、無化学肥料で栽培。アイガモ農法で稲作をし、ニワトリや豚、魚も育てています。 体験学習に参加する自由の森学園の中高生や引率の教員たちも、草取りや収穫、飼料づくりといった生産活動に参加して、各国の学生たちと寝食を共にします。 「普通に現代的な生活をしている中高生たちにとっては、初めて経験することばかりで大変だと思いますよ。初日は嗅いだことのない飼料の発酵臭に口や鼻を押さえている生徒もいましたね。それでも覚悟を決めてやらざるをえない。みんな頑張っていますよ」。 食べるために生き物を育てる。ごく当たり前のことながら、都市に生きる私たちが忘れかけていた営みには、引率の教員さえもカルチャーショックを受けたといいます。 「生まれたばかりの子豚を前にして、1歳になる前に肉として出荷されるというリアルな話をうかがいました。かわいい盛りの子豚が、です。でも僕たちが命をつなぐために食べものにするには屠殺という過程が必ず存在します。分かっていたことではありますが、生と死はすごく近いものだと感じて、肉や魚を食べることに緊張感をおぼえました」と社会科教育や医療、インフラへのアクセスがほとんどない。フィリピンでは島に住んでいるのに一度も海を見たことがない人がいるんです。それだけ知識や機会が乏しい。そういう村落でのリーダーに求められることを9か月間で身につけます。でもここは日本ですから、学んだことをそのままなぞるのではなく、自分たちの地域で応用することが重要です。たとえばここでは家畜のエサや肥料におからを使っていますが、おからは他の地域にはないですよね。だけど植物性のタンパク質だと知っていれば、熱帯ならたくさん落ちているマンゴーを発酵させて使えばいいと気づきます。ここでの学びは学生だけのものではありません。その背後にいる農村の人々に伝わることが最終的なゴールなんです」。豚やニワトリ、魚を飼育しているほか、2.5ヘクタールの畑で約100種類の野菜を無農薬、無化学肥料で栽培している。農業を学ぶために来日したさまざまな国籍の学生と共に畑を耕す。他にも飼料づくりや動物の世話など、体験学習で取り組む生産活動は多様。アジア、アフリカ、太平洋諸国などの58か国もの国から学生が集う、アジア学院。9か月間の農村指導者養成の研修を受け、農村指導者(Rural Leader)を目指す。

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