morinoat_27
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3ぎになっていたそうです。そりゃそうですよね。でも当時の僕には、臭いとか臭くないとか関係なかったんです。 長崎にある五島列島でイルカが打ち上げられたと聞いて、急いで現地に行ったこともあります。この時拾った骨は、片っ端からスケッチしました。一部の例外を除き、哺乳類の頸椎の数は7つで形成されていて、首の長いキリンでもその数は変わらないのですが、イルカにもその痕跡がちゃんと残っているのだと感動したのを覚えています。この時の骨のいくつかは、今でも学校に残っているようですよ。高校時代の思い出はほとんど「骨」 日本では 「標本士」という肩書を名乗っていますが、標本士という資格や職業は日本にはありません。ドイツ語のPräparator(プレパレーター)という言葉を訳して、標本士という肩書を使うようになりました。顕微鏡標本をプレパラートと呼ぶのを聞いたことがある人はいるかと思いますが、ドイツでは標本全般を指す言葉なので、プレパレーターとは「標本を作る人」のことです。 高校時代に理科の教員と有志の生徒で、いろいろな生き物の死体を拾ってきて骨格標本を作っていたことが、今の仕事の入り口になっていると思います。当時、交通事故死したサルの死体が手に入ったときには、進化の授業でやった拇指対向性(※1)を実物で見ることができた。授業で学んだことを実際に目で見て、触って感じられ、興奮したのを覚えています。 夏休みには1人で北海道の海岸を訪れ、イルカやアザラシの骨を拾い集めていました。全部は持ち歩けないので、持ちきれなくなったら学校の寮に送っていたのですが、寮では、当時異臭騒相川 稔 さんAikawa Minoru博物館という仕組みはもっと大きな役割を果たすことができるはずもりのあとを歩く438期生相川さんが作り上げた、フクロウとキボウシインコの標本。活き活きとした眼差しや滑らかな毛並みがまさに生きているのでは、と錯覚するような雰囲気を醸す。※1 拇指対向性(ぼしたいこうせい)親指が他の指と向かい合う配置になっている手足のこと。枝を握りやすく、木の上で生活するのに適する霊長類の特徴のひとつ。ほとんどの霊長類が手足ともに拇指対向性があるものの、人間は手の拇指対向性だけが格段に発達し、足指は対向性が失われている。樹上から降りて、地面をスムーズに移動することが求められるようになったからではないかといわれている。

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