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11網走、アラスカのポイント・ホープなど、国内外の各地を訪れて、クジラ文化の聞き取りや調査を行っています。そして、そのリサーチから生まれたイメージをもとに、絵や文章を刺繍で綴った作品を作っています。 このような形で活動をする人は、あまり多くないかもしれません。でもリサーチと刺繍のどちらかという選択肢は、私にはありません。現地で出会った人の話を、頭だけで考えてすぐに言葉にするのではなく、一度自分の中へ深く受け止めて、そこから生まれてきたイメージを刺繍にする。その針と糸でチクチクとイメージを刻む時間が、とても大切な工程になっているんです。 各地で聞いた話や人々の想い、土地の香りが身体の中に浸透していくことを通して、聞いた話や、その経験を理クジラが人々をつなげ断絶する不思議 ノルウェーの人類学者・アルネ・カランによると「反捕鯨運動家はクジラを“人間のように頭がいい地球上最大の生物”と呼ぶが、そこで語られるクジラは、歌を歌うザトウクジラや知能の高いマッコウクジラ、そして地球上最大の生物シロナガスクジラなど、さまざまな種類のクジラの特徴を合体させたものだ」と指摘しています。 このようにメディアの中で“神格化”されたクジラは《スーパー・ホエール》や《メディア・ホエール》と呼ばれ、そのイメージに攪乱される現象も問題視されています。つまり、捕鯨論争が大きくなる中で、無意識のうちに“架空のクジラ”を生み出しているばかりか、その“架空のクジラ”を巡って国や人種間で境界線を引いて対立し、それぞれの現実が見えなくなっているという問題が指摘されているのです。 一方、当のクジラは季節のうつろいとともに、世界中の海を回遊しています。その途上には、クジラを捕って食べる国もあれば、神の使いだと信じて大切にしている国もある。またクジラを守る活動に熱心な人たちもいます。そんなことを知る由もなく、クジラは悠然と世界中の海を回遊しているのです。フィールドワークとアートワークを両輪に 現在、美術家として活動しています。数年前から、和歌山県太地町や北海道の是恒 さくら さんKoretsune Sakuraテキストとテキスタイルが重なり合う場所を探してもりのあとを歩く4417期生刺繍作品と、各地で聞き取りした話をもとにしたテキストを編集した、リトルプレス(自費出版)『ありふれたくじら』。現在VOL.5まで発刊している。

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