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8の研究を語る」ということが行われていた。今でこそ探究型学習などといって各地の学校で始まっていますが、当時まだそれほど一般的ではない中で、しかも教師の手がそれほど入っておらず、自分の言葉で自分の思想を語っていたという点です。2番目は、公開教育研究会に生徒が参加していたことですね。普通は教師が主体で、高校生も一緒に議論するケースはほとんどない。自由の森はかなり前から教員や外部の参加者、研究者と一緒に高校生が参加すると聞いて、これはとても重要なことだと思いました。菅間:小玉さんが見てくださった生徒の研究報告は決してパフォーマティブなものではなかったんですよね。発表した生徒はどちらかというと口数が少ないタイプ。そういう子が自分が書いたレポートをとつとつと読んだ。優生思想がテーマでしたが、ちょうど相模原市の障害者施設で入所者が殺害された事件のあとで、彼女が抱いた「人間とはなにか」、「障害とはなにか」という根源的な問いを、世の中の動きと絡めながら発表してくれました。ディベートやパフォーマンスではなく生徒が実感に基づいて語った作業を評価してもらえたのは大きな意義があると思います。小玉:教育研究科には私以外にも自由の森学園と交流している教員がおりますし、学園の歴史や教育を研究テーマにしている学生や院生も少なくないんです。そういうこともあって、公開教育研究会のあと「東大と自由の森でなにか面白いことができないだろうか」というお話をいただいた時に教職課程委員長の藤江康彦教授とも相談し、相互交流ができるのではと考えたわけです。高校生が主体になって大学を変えていくような「高大接続改革」を東大生を刺激する自由の森菅間:連携について僕たち自由の森学園のほうはまだそれほど綿密なロードマップがあるわけじゃないんです。東大の研究者に来てもらって生徒たちに「こんなことを学んでいるよ、楽しいよ」って伝えてもらったり、反対に生徒の発表を東大のキャンパスで行ったり、その発表に対して研究者からコメントをもらったりと、お互いにとって面白い出会いや取り組みができればと考えています。あるいは子どもたちのパーソナルサポートに東大の知見を借りられたらと。小玉さんは自由の森にどんなことを期待していますか。小玉:主に3点あります。ひとつは東大で学ぶ学生の視野を広げる重要なフィールドになるだろうということです。この大学で教育を学ぶのは教育学部や教育研究科の学生だけではありません。教員免許取得をめざして教職課程を履修している他学部の学生もかなりの数います。教育実習は主に東大附属の中等教育学校あるいは自分の出身校で行いますが、出身校だとどうしても自分が受けてきた教育の世界に戻ることになり、経験値としてはそれほど目新しくないんですね。もちろん生徒だった自分が教師として教壇に立つという意味では重要な経験だけれども、東大に来て社会の物事を新しい目で見ようとしている学生さんにとって刺激になるような、世の中への目が開かれる場として自由の森を捉えています。菅間:なるほど。小玉:もうひとつは教育学部の研究の新しい第一歩というか、活性化につながるだろうと。教育学部は東大の中では比較的リベラルな、市民社会の側に立った学問をやってきたという自負があります。ただ今の時代の中で、教育学部が東大に存在する意味をもうちょっと拡大したい。というのは、東大って上から目線の学問をするイメージがありませんか。菅間:あぁ、正直ありますね。小玉:今年の入学式で上野千鶴子先生が式辞で述べられたように(※2)女子の比率も非常に低いですよね。そういう東京大学そのものを変革していく拠点として教育学部の存在をより強固にしていく。その時に市民社会の立場から教育を行っている学校と積極的に連携していく必要があるだろうと考えています。それから3番目は「高大接続」の問題。自由の森学園の公開教育研究会のように高校生が主体になって大学を変えていくような高大接続改革をもっと進めようと考えています。今までは大学が研究の場で高校までは勉強する場所といった役割意識がありましたが、今は「文系って必1967年生まれ。自由の森学園高等学校教頭。社会科教員。教育科学研究会常任委員。『人間と教育』編集委員。著書に『はじめて学ぶ憲法教室』 全4巻(新日本出版社)、共著に『新しい高校教育をつくる』(新日本出版社)、『投票せよ、されど政治活動はするな!? 18歳選挙権と高校生の政治活動』(社会批評社)、『答えは本の中に隠れている』(岩波ジュニア新書)など。菅間 正道 教頭自由の森学園 高等学校※2 上野千鶴子先生の式辞2019年4月、東京大学の入学式において上野千鶴子さん(東京大学名誉教授、認定NPOウィメンズアクションネットワーク理事長)が東大入学者の女性比率が「2割の壁」を越えない事実などにふれ、東京大学においても女性差別があることを鋭く指摘した。

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