morinoat_24
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14見てほしい人がいるから「つくる」 今、絵本と人形アニメが連動したようなものを企画しているのですが、久しぶりにひとりでクレイアニメを作っています。世界がなかなか広がらない自分のまま、工夫して落としどころをみつける。そういう作業の中だからこそ出てくるアイデアもあるんです。 少し前に息子が生まれたのですが、彼が5歳になる頃に完成する予定です。見てもらいたい人がいるのってとても楽しいんですよ。 そもそも僕にとって何かをつくるって、「誰かに見せたいものがある」ということでした。最初は友人に見てもらいたいものだったし、今は子どもにも見てもらいたい。そういう身の回りレベルのことが、僕の何かをつくることの始まりなんです。 発想系の仕事だと、考えることそのものが居場所になるからセーフかもしれませんが、営業の仕事みたいな、人間の結びつきをまとめていくような仕事は、きっと僕には難しいんです。だから拒まれた。 今、CMの仕事をいただくと、社会の中で「正規のルート」みたいなところを通ってきた方々と一緒に物を作れるのが何よりも嬉しく、ありがたいです。社会に受け入れられているという実感が沸きます。自分の「世界の見え方」を受け入れる 僕の作る映像は、クレイアニメからCGまで表現方法はさまざまなのですが、何を使うかは実はあまり関係なくて、大事にしているのは、自分の中にある世界観なんです。 創作物と呼ばれるものは、すべて作った人の「私には世界がこう見えています」というところにつながっている。僕が得意としているのは、子どもが積み木を積んでいく時のような楽しさの延長にある「ひとり遊び」のような作品です。そんな僕の作品を喜んでくれる方がたくさんいることは嬉しいのですが、実はそれほど、あれやこれやと膨らんでいく世界観ではありません。 人間を深く理解するための内容だったり、世界をもっと良くしていきたいという意気込みが込められたものだったり、そんなテーマだったら人に誇らしく話せるんですけどね。僕のやっていることは「1人でなんかいじって遊んでいます」っていうレベルから先がないから、正直そんなに広がらないんです。 だからといって苦手なことを無理やりやるのは辛いし、当然ながら結果もついてこない。だから僕はこの「1人でなんかいじって遊んでいます」っていうことをひとまず自分で受け止めて、まずは、その中でできることを考え続けていくしかないのです。「世界が広がらない自分」のまま、工夫して落とし所をみつける。そういう作業の中だからこそ出てくるアイデアもあるんです辻川 幸一郎さん〈4期生〉1972年福岡生まれ。自由の森学園高等学校卒業後、武蔵野美術短期大学空間演出デザイン科入学。卒業後、ニューヨークのアートスクールへの留学を経て独立。友人でもあるアーティスト「Cornelius」に提供した映像が広く評価され、次第に紙媒体のデザインから映像へとフィールドを移し、現在、映像作家・ディレクターとして多方面で活躍中。

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