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6現在南極で稼働している検出器「IceCube」を応用して、新しい検出器の開発が進められている。次世代機「Ice Cube-Gen2」は、さまざまな検証を経て、実際南極で運用が開始されるのは早くて10年先とか。ています。その結果、コピー用紙や備品を用意したり、器具のメンテナンスをしたりする人がいなくなって、若い研究者が雑用を務めています。研究職のポストも減りました。私たちが大学院生の頃は、「団塊世代が抜けたあとのポストがある」と聞いていましたが、現状は3人でやっていた仕事を1人でこなしています。例えば持たされる授業が週1コマから3コマになるような。その分、研究時間が減ってじわじわと研究者の体力を奪っています。切実に今後のことを心配しています。伊藤:女性研究者は、日本では以前から少ないですが。石原:現在、医療系を除く、いわゆる自然科学系の女性研究者比率は欧米でだいたい20%。日本はたった10%です。欧米では「女性科学者を30%に」という試みが進められていますが、日本はまず20%に到達しないことには何も始まらない。つまり現状の倍です。相当大変ですよ。実際、女性はあまり期待されていない。私はその方がラクなんですけどね。変なプレッシャーがないことを利用して、好きなことをやっちゃおうって。期待されていないなら好きなことをやればいい伊藤:物理学も含めた「基礎研究」と呼ばれる分野は、世の中にすぐに役に立つものではない。だから、気をつけていないとおろそかにされてしまいかねない分野ですが、その大切さとは何でしょう?石原:次の世代を支える土台になる、というところですね。私たちが400年前の研究に感動するように、もしかしたら自分の研究が人類の知のライブラリーに加わるかもしれない。1人で解明できることはわずかだけど、寿命を超えてその成果が次の世代の礎になって、それがその次の世代に…… と続いていく。その知の連なりに寄与できればと思っています。伊藤:とても大きなロマンを感じる世界だね。一方最近は基礎研究費が削られて、研究の現場は大変だという声も聞ききますが、何か思うところはありますか?石原:科研費(科学研究費補助金)の予算額自体は、ここ2~3年でそれほど変化はないんです。でも、効率化が叫ばれるようになって大学の運営費が削減され男性も、男だからといって自分に過剰なプレッシャーをかけない方がいい。「こうでなければ」という思い込みにはまると、期待していた結果はついてこないものです。自分にできることを一生懸命やれば、必ず手ごたえはある。若い世代の理科の学びを考える伊藤:子ども達の心に、科学への関心や興味が育つためには、学校の理科の授業で、自然を相手にどんな風に学ぶことが大切だと考えますか?石原:実験をしたり、実験器具をつくったりして、どんどん手を動かしながら科学に親しむ時間が増えるといいと思う。自然と触れ合うのも科学者の原体験として必要なこと。山歩きや天体観測を通した体験で刺激されることも多いはず。あと授業以外の要因も大きいと思う。親が「あんたにはムリ」と決めつけたり、周りから「女の子はあまり賢くない方がカワイイ」などと聞こえてくる。それをいつのまにか内在化させて、興味があるのにあきらめてしまう。周囲の無責任な発言で、心にフタをしちゃうなんてもったいないですよ。外野なんか気にせずに自分のアンテナに素直に従ってほしい。伊藤:文系か理系かと考えて、大学受験の段階であきらめてしまう人も少なくないですね。石原:東大や京大じゃないと大きな研究ができないかというと、そうではない。学部なんて駆け足の練習みたいなもの。大学院で学会に認められるような成果を出せばいいんです。ニュートンが物理と数学の魅力を教えてくれた伊藤:他のインタビュー記事で見かけたのですが、高1の時の理科の授業で万有引力を知ったのが物理の道に進むキッカケになったとか。石原:そうそう、「地球のりんごにも宇宙の天体にも同じ力が働いていて、それをごくシンプルな数式で記述できる」ということに衝撃を受けたんです。

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