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55石原:あと、楽観的なマインドも必要です。実験がうまくいかなくても「次は別の方法でやってみよう」と切り替えて、違うチャレンジができます。物理の実験は失敗の連続。研究人生を賭けたものが失敗に終わることだって珍しくない。そこで挫折して立ち直れないようだと研究そのものがストップしてしまいます。伊藤:いま日本では、他人のちょっとした失敗にも目くじらを立てる傾向があるけれど、失敗は新しい「発見」を生む。ていたと聞きました。重要な役職へのプレッシャーはありませんでしたか? 多国籍なうえに、科学者という個性の固まりみたいな人々をまとめるわけでしょ? ちょっと想像するだけでも大変そうだけど。石原:そりゃあ、プレッシャーはありましたよ。でも女性が高いポジションに就きづらい今、私がリーダーになることで今後の展開が変わるかもしれないと思って。「責任が人を育てる」ともいいますし、そこはチャレンジするしかないですね。みんな一流の科学者ですから、彼らが仕事しやすい環境をつくることが肝要です。お国柄によって多少の違いはありますよ。例えばアメリカの人は結果に最短でコミットすることを好むけれど、ドイツ人は丁寧に段階を踏むことを選ぶとか。ただ最後は協調性ではなく、実力。実力がものをいう世界です。自分の研究で結果を出すことですね。科学の世界は多数決ではないんです。100人が間違っている中、1人だけ正しいことを言っている場合がある。正しいことをピックアップするのが科学の役割。科学者は忖度したらおしまいなんです。「王様の耳はロバの耳!」と叫び続けなければいけません。たとえ相手が偉い先生でも間違っていたら指摘しますよ。伊藤:そこが自然相手の学問ならではのいいところだよね。そこをつなげる想像力が大切なんだね。チャレンジしないと、失敗もないけれど。石原:失敗するのはいいけど、なにも考えないで失敗し続けるっていう状況なら、少し考えなければいけない。1回目と2回目ではなにが違うのか、あるいは何回くり返しても同じ結果ならそこになにか理由がないか、推測していく意志がなければいけない。実際に、優れた研究成果の多くは失敗から生まれています。それがサイエンスの面白さでもあります。責任が人を育てる。チャレンジするしかないです伊藤 賢典(けんてん)/自由の森学園中学校・高等学校理科教員。学園創立当初から在籍する最古参教員の1人。長年にわたり人力飛行機部の顧問も務め、琵琶湖で行われる「鳥人間コンテスト」に過去十数回出場。書籍『ぼくらが鳥人間になる日まで 飛べ!プテラノドン』(ポプラ社)を監修。左:光検出器。直径約30cmとコンパクトボディながら、400気圧を超える氷中の気圧に耐えるタフネス。中:南極点近くに位置する、アイスキューブ・ニュートリノ観測所のイメージ図。1立方キロメートルにわたり、2.5kmの穴を86本あけて、光検出器5,160個をタテに連なるように埋設している。その規模は同様の施設の中で世界最大。右:光検出器が検出した、高エネルギーのニュートリノ反応の1つ。通称「ビッグバード」。

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