選択講座〈Study Abroad〉では、10月に約2週間のカナダ旅行を実施します。現地の学校に赴き、小学生、中高生との交流を行いますが、その内容は毎年生徒の手づくり。どんな交流をしていくか、履修した生徒たちは、春から話し合いをはじめて、こつこつと準備を進めていきます。
はじめに、カナダの小、中高生に向けて行う日本文化の授業内容について話し合いました。一括りに日本文化といっても、さまざまです。その中でも生徒の得意分野や小さい頃からよく知っている日本の遊びなどが選ばれました。そしてグループに分かれ、細かいことを決めていきます。
生徒たちはカナダの小中高生に何を伝えたいのか、どんな風にしてやれば分かりやすく伝わるのか、何を選べば喜んでくれるのか、など常に相手のことを考えることを大事にしながら、準備を進めていきます。
夏には、みんなで学校に泊まる事前合宿が行われます。数グループに分かれてつくりこんできた日本文化の授業。たがいに見合って感想を交わしあい、さらに充実したものにするにはどうすればいいか試行錯誤を重ねます。
9月になると、学園の中学生の教室で、リハーサル授業をします。授業はもちろん英語で進行するので、もどかしい部分が出てくるもの。自分たちだけで練習していた時には見つけられなかった、改善点を発見することもできました。そしてたくさんの不安と、少しの期待を持って、いよいよ出発です。
ブリティッシュコロンビア州のバンクーバー島にあるキャンベルリバーに滞在しました。自然に恵まれた小都市です。滞在中はホストファミリーの家で過ごし、その家から毎朝Campbell River Christian School(以下CRCS)に登校します。
小学校クラスでは午前、一緒に授業を受け、午後は日本文化紹介の授業(昔話・習字・踊り・折り紙・遊び)をしました。中高生クラスは、日本文化プレゼン(習字・遊び・着物・展示)を通した交流タイム。ほかにも日常の授業に参加させてもらう時間もありました。
一人ずつ、ホストファミリーの家で暮らしの仲間に入って生活する10日間。当初緊張していた生徒もたくさんいましたが、ホストファミリーの皆さんのおかげで、アッという間に打ち解け、帰国後の今も多くの生徒が交流を続けています。
滞在もあと数日となった頃に、お世話になった皆さんを招待して、Friendship Night(感謝の夕べ)を開きます。約100人もの招待者を前に、日本の料理、歌、踊り、文化紹介でお礼の気持ちを伝えます。
州都のVictoriaは、Campbell Riverとはうって変わって、大きくて町並みのきれいな都市。ここで1日、町歩きや買い物を楽しみました。そして翌日、日本に帰国。12日間のホームステイは終わりました。
カナダから帰ってきてからは、まずそれぞれの思い出を共有しました。約2週間、一緒に滞在したといっても、感じたことは一人ひとり違い、充実した時間をお互いに知り得ました。
最後にその時間を文章にまとめ、レポート冊子を作ります。英語と日本語の二ヶ国語でつくり、カナダでお世話になった方々に送ったり、校内で展示発表をしたりしました。そしてこのレポートは、次の年に下の学年の人たちが、新しい「スタディアブロード」を作る時のきっかけづくりの一冊にもなっていくのです。
Study Abroadは、2015年までに10回行われてきました。滞在中はホームステイをしながら高校に通い、授業交流をします。
高校生という多感な時期に、自分の家庭以外の家で家族として暮らしてみることは、かなり大きな体験のようで、参加生徒の多くはホストファミリーのことを帰国後たくさん話してくれます。参加生徒は毎日の暮らしの中で、日本とカナダで違うことや変わらないことを自然に体感していきます。約二週間の滞在ではでは英語の力がすぐにつくわけではなく、世界には様々な考えや暮らしがあることを実感し、自分の生き方を豊かにする要素のひとつとなることの方が大きいと言えるでしょう。英語力をつけるという意味では、現地の学校で行なう日本文化紹介の授業を英語で行なうための事前準備や帰国後のまとめの作業の中で、さまざまな英語表現を身につけ、またプレゼンテーションの練習にもなっています。
担当教員としていつも思うことは、二週間とはいえ、日常をはるかに超えた体験の濃密さと高校生たちのしなやかで目覚ましい変化の素晴らしさです。異国の空気を短い間にぐんぐんと吸い込み、自分の滋養にしていく様子に立ち会えることは言葉にならない充足感があります。
一方で、一旦学校の外に一緒に出てみると、自由の森の日常で育っている力が現れてもきます。彼らは堂々としながらも高い共感力を持っていて、これがよくいう校風ということなのかなと気付かされます。自由の森は観(もののみかた)の教育を目指していますが、この講座をはじめさまざまな授業や活動の中で、生徒一人ひとりがじっくりと自分のものの見方を豊かにしていく一助となることを願っています。また、この授業を通して気付いたことを必修授業にも活かしてしていきたいと思っています。