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教育理念
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VOL.2 ESD(持続可能な開発のための教育)を通して次の学園の学びを見つめる 自由の森学園は今年度よりユネスコスクールに加盟しました もりのあと 22 号 自由の森学園・考④を再編集し再掲

自由の森学園 数学科
松元 大地

地域の学びを通して人々とつながる

松元:ここからはユネスコスクールに加盟してからの取り組みについて、ご紹介させていただきます。私たち 2 人は昨年中学 1 年生の担任を受け持っていたのですが、中学の総合学習の時間はすべて地元の飯能について学ぶ時間としました。

この地域は、先程ご紹介いただいた西川材の林業と養蚕を両輪とする産業で、江戸時代から持続可能な社会を築いてきました。そういう地域の歴史や産業について知ってもらおうと、この1年間はとにかく飯能の街を自分たちの足で歩くことから始めました。

飯能の街中はもちろん、学校の近くを流れる名栗川沿いを歩いたり、林業が行われていた林に入ったりもしました。

石井:西川材は名栗川で筏に組まれて江戸の木場まで川を使って運ばれていたわけですが、飯能駅を通っている西武線は今、地下鉄の有楽町線に乗り入れて新木場までつながっているんです。そんな彼らが体感として知っている現代の様子とミックスして伝えると、生徒たちもぐっと興味を持ってくれます。

阿部:確かに、昔の話をただ聞くのではなく、今の自分たちの生活につながっていることが感じられると、生徒たちの興味の持ち方も変わってきますよね。

松元:林業の体験もして、実際に間伐材を使って遊具を作ってみたりもしたいと話しています。一方で、飯能市は工業団地を誘致しているので、開発が進んでいる現場を見に行って20年後、50年後を考え、どうするのがいいのか?というような話し合いもしました。

そうやって自分たちの足で歩いて、お腹が空いたら地元の野菜を使ったうどんを食べたりすると、野菜が好きでない生徒もよく食べてくれたりするのが面白いですね。

阿部:作っている人の顔が見えるというか、「存在が感じられる」のでしょうね。不思議と味も変わってくるのかもしれませんね。

松元:飯能市は元々高麗郡の一部で、地元には高麗神社もあります。朝鮮半島にあった高句麗の王族が渡ってきて開いたとされる神社で、今でも地元の人たちには大切にされています。

私たちが訪問した時は、ちょうど北朝鮮のミサイル危機が叫ばれている時期で、J アラートが世の中を騒がしている中、高麗神社に参拝に行けたことも生徒たちにとっては良い学びになったのではないかと思います。

阿部:それはまたいいタイミングでしたね。自分たちの暮らす地域、つまりローカルがグローバルにつながっているということを意識するには、とても大切な学びの機会だったのではないかと思います。

高麗神社

【高麗神社】
飯能市のとなり、日高市にある朝鮮半島の高句麗の王族が開いたとされる神社。今でも地元の人たちには大切にされている。

松元:中学1年の最後には、1年間の学びの集大成として、飯能市の市長さんに宛てた手紙を生徒たちが書きました。各々が飯能の魅力をどうアピールしたらいいのか? ということを考え、手紙にまとめたんです。ダメ元で飯能市に連絡を取ったら、市長が直々に受け取ってくれることになって手渡しに行くことができました。生徒たちもさすがに緊張していましたが、自分たちの声を行政に届けられたということで、手応えを感じている様子でした。

阿部:そうやって子どもたちが調べたり学んだりしたことを、行政に限らず地域の大人たちにフィードバックすることは非常に価値があることだと思います。

子どもたちの視点で地域の価値を発見することは、地元の人たちが一番喜びますし、地域の活性化につながる。特に、子どもたちの声で直接伝えるのが効果的です。

欲をいえば、地域の大人も巻き込んで一緒に動けるようになると、1+1が3にも4にもなるでしょう。子どもたち自身にも刺激になりますし、自分たちが地域社会を担うキーパーソンだという意識が芽生える。それこそ、ESDの目標である主権者教育につながる学びだと思います。

松元:ありがとうございます。地域の博物館や図書館から、生徒たちが調べた成果を展示しないかという話はもらっていますが、今後は、地域に対してフィードバックしていく機会をさらに増やしていきたいと思います。

過去の林業従事者の歩みを
追体験する「ナイトウォーク」

自由の森学園 理科 石井 徹尚

石井:つい先日、ナイトウォークといって学園から名栗の奥にある「名栗げんきプラザ」という県立の課外活動施設まで約24kmの道のりを歩く取り組みをしました。

名栗で伐り出した西川材を、飯能まで筏に組んで出荷した林業従事者たちが地元まで歩いて帰った道程を追体験しようという試みです。当時の人たちも、この季節は暑い日中ではなく、涼しくなるまで市中で飲み歩いたりして、夜になってから歩いたのではないでしょうか。

保護者の皆さんにも大勢参加していただき、無事約8時間の道程を歩き切ることができました。途中でホタルを見たり、養蚕をしていた家を通ったり、さまざまな体験を通して地域を学ぶことができたと思います。

ナイトウォーク

【ナイトウォーク】
学校から名栗村までの約 24kmを夕方から6時間かけて歩く「ナイトウォーク」。川沿いを上流に向かって歩くこの道は、江戸時代に木材を筏(いかだ)にして街に下ろしていた職人が、夜、山に帰るために歩いた道のりでもある。

松元:中2生の足で歩くには結構な距離なので、文句のひとつも出るかと思っていたのですが、予想以上に楽しめたようで、後日のまとめにも皆んな積極的に参加していたのが印象的でした。「げんきプラザ」の職員さんたちも意図を伝えたら理解してくれて、到着が夜遅くになるにもかかわらず、お風呂の準備をして待っていてくださいました。

阿部:そうやって地域の大人を巻き込んでいけるといいですね。それだけ歩くと、途中には他の学校がありますよね。学校を超えた合同イベントにして、一緒に歩いたりできるとなお良いと思います。

石井:そうですね。生徒たちと歩いていると、地元の人たちが結構声をかけてくれるんですよね。「何をやっているの?」と。課題としては、初の試みということもあって、まだ地域にとって異質な存在になってしまっていたということがあります。今後も続けていって、声をかけてくださった人たちに「今年も来たね!」と声をかけてもらえるようになるといいなと思っています。

3:「
都市に近い里山がある」という
立地条件を活かした取り組みを >>