
本誌の書評をいただきました
40周年記念の新刊書、
おめでとうございます
自由の森学園の追求してきたテーマ
菅間正道(自由の森学園高等学校長)編著『安心と自由、信頼の学校づくり』が11月1日付で刊行されました(同学園発行。1500円+税)。A5サイズ、235頁。同学園の創立40周年を記念した書籍です。
「競争原理に依存しない学校教育は可能なのか?」という大きな問いのもとに同学園は、1984年に設立委員会が設けられ、1985年にスタートしました(理事長鬼澤真之「はじめに」)。別の言い方では、「『競争主義・点数序列主義』に異議申し立てを行い、『人間がより人間らしく』成長していく営みに教師たちが支援・伴走する学校として」創立された(校長菅間正道「現代日本の教育と自由の森学園の挑戦」より)。
第2章では、同学園の教育実践が編まれています。私は「生き方としての進路」の教育に惹きつけられました。高3で進路選択に際して、具体的な職業に関する企画はもちろんですが、「歴史を守る仕事」「行き場所を求めて」などが上がるのも、自由の森学園らしいと思います。「仕事」の話を聴く「あの人にインタビュー」をおこなったとしか書かれていないのですが、私は共感しました。というのも、看護学部で養護教諭志望の学生たちに1年次「教職入門」で、中学か高校時代の先生に「なぜ教職を選んだのですか」などの「問い」をもってインタビューに行ってそれを教室でプレゼンする授業を毎年おこなったからです。
学園を見守る他者のまなざしを豊かに受け止めて
実践報告だけでは「主観的な記録」となるからということで、卒業生のメッセージや同学園にゆかりのある方々(哲学者西研、落合恵子、加藤登紀子ほか)の寄稿が収められています。それから、40周年記念シンポジウム(今年の6月に開催)「いま、学び/学校に問われているものは何か」の全体が文字化されて収録されています。パネリストは勝野正章、中村(新井)清二、阿比留久美、片岡洋子、コーディネーター菅間、という方々です。
この草稿を書いた時点で同書をまだ全て読み切ったわけではないですが、飛び飛びに読んでわかったことは、1つには、生徒が安心して探求できる学びの場をつくろうと教職員が共同で実践してきていること、もう1つは、同学園生活のあらゆる場面で「他者とのかかわり」を丁寧に紡ぐ教育を築いてきていることです(同中学校校長菅香保氏のメッセージも参照しました)。これら2つのことがそのまま、現代日本の教育への挑戦になっています(前述、菅間校長)。
シンポジウムの対話が輝き出させたもの
シンポジウムではフロアから、いろんな意見や問いが出ていますが、ある保護者は「学園は競争原理を排することが教育理念だと言いますが、それは方法論であって、目的とは違う」、中学、高校では何を目ざすのか、と問うています。これには菅間校長が「一人でできることとみんなでできることを同時に深めていく、そういうことを実践する場が学校の役割の一つ」と応答しています。
ここは微妙にずれが生じているように思いました。つまり、競争原理を排してその学びにプロセスでどのような人間あるいは主体者を育てていくのか、を質問者は投げかけたのに、学園側はやはり方法で応答している。先の鬼澤理事長の言葉でも、競争原理を排する学校教育は可能かという起点は、「どのようにしてそういう学校をつくるか」となって、やはり方法論のほうがクローズアップされる感じです。いまの日本の社会の現実を生きていく主体者として民主主義を担っていくこういうちから、このような内実を伴う批判精神といった人間形成の内実を質問者は期待したのでしょう。
ただし、教育の方法や技術のその1コマ1コマの中に、教育の理念や思想が刻まれているとする教育実践観も我が国の教師たちがたたかいながら育んできた重要な教育観です。その意味では、菅間校長の応答は、的を射ているのでしょう。
その一方で、まったく私の感想ですが、競争原理を排するという市民社会と民主的シティズンシップに寄りそった同学園の教育に少しエリート教育的なものが感じられ、気になりました。貧困・格差や暴力、被虐待環境での心の傷つきなどが、同学園ではどのように位置づけられ、教育の内容の中にどのようにセットされているのか、です。
パネリストの勝野正章さんは、《教師にはこういうことを教えたい、子どもとともに創りたいという思いがあるのにそれが満たされない、ぽっかり「穴」がある。これが教職の専門性なのに、今はICTでこういうことを教えよなどと、外から(政策的に)その「穴」が埋められようとしている。そうではなく自分が自分のやりたいことを追求してその「穴」を埋めていくことができるように、教師の「デザイアー(欲望)」を取り戻さなくてはいけない》という主旨のことを述べています。このあたりに、教育目的と方法・内容の関係をそれこそ「埋めていく」大事なヒントがありそうです。