自由の森学園 中学校・高等学校 学校案内 2022
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63 激しく変動する21世紀の社会で、10代の子どもたちが学び成長する学校に求められる役割はどのようなものでしょう。言われたことは素直にやるが、主体的に課題を発見し、その解決に向かう姿勢に欠ける。「学力」は高いけれども、学習意欲や学ぶ主体的な動機は希薄。国際的な調査から浮かび上がる日本の教育の課題です。 これに対して、教育界ではアクティブラーニングの導入や記述式入試などの試みが行われていますが、テストとそれへの回答という繰り返しで培われる受け身の学習観が大きく変化するとは思えません。 学ぶことの本質的な喜びを見出し、他者と深くかかわりながら豊かに自己形成していく若者を育てる学校教育の必要を痛感します。学ぶ喜びに触れ、心の自由を育てる教育を~自由の森学園の設立~ 自由の森学園中学校・高等学校は1985年、明星学園小中学校の校長であった遠藤豊らを中心に、「点数序列主義」に迎合しない新しい教育をめざして設立されました。その理念の支柱となったのが、数学者遠山啓の教育論です。遠山は、違う個性をもつ一人ひとりの子どもの成長を支える教育をすすめるうえで、広く学校教育に浸透している競争原理は妨げになると考えました。競争心を刺激する教育は、簡単に人間をふるい立たせる力をもっているが、その反面、目標を他人におくために自分自身を見失うという問題をもっていると考えたのです。 自由の森学園は、競争原理をテコとせずに、人間としての本来の学びを、授業を通して実現しようと創立された新しい学校なのです。理念の実現を目指した3つの実践的転換 自由の森学園は、その理念を実現するために3つの教育活動の転換を行いました。そのひとつが授業とカリキュラムの改革です。連関の薄い大量の知識を詰め込む授業から、幹となる本質的なテーマを深く学び取る授業への転換です。一方的な伝達授業を改め、思考、対話、表現を重視することで硬直した受け身の学習観を変える授業を構築しました。また、芸術と表現の教育を重視し、 自由の森学園は、人と関わることを通してさまざまなことを学んでいく学校です。大人が子どもたちを育てているというのではなく、この自由の森学園に集ったり関わったりしてくれる人たちからの「力」や「作用」の集積が、自由の森学園という「場」をつくっています。 人だけではありません。もし自由の森学園がコンクリートに囲まれるような都会的な場にあったとしたら、いまの自由の森学園の姿とはまったく違うものになっているように思います。この小岩井という地に根を下ろし、周辺の環境の力も借りています。 こうした「場」で私たちがしていることはたくさんありますが、3つのことを紹介したいと思います。それは、「授業をつくる」、「学校をつくる」、そして「自分をつくる」ということです。 一方向からの受け身型の授業ではなくて、自らが思考しそれを表現し、あるいは他者の考えに耳を傾けさらに思考していくというような、より対話的な授業の空間をつくること。これを私たちは「授業をつくる」と言っています。 こうしたことは、「学校をつくる」ということに展開されていきます。学校で起こるさまざまな事象に対して「自分のこと」としてとらえる感覚を持ちながら、さまざまな活動を行うことを通して他者のつくる世界と交わりながら、自分ひとりでは到底なしとげられないような大きなプロジェクトを完遂していくさまざまな日常の活動のことを「学校をつくる」という言い方をしています。 さまざまな経験を通して、一見まったく無関係な存在である事象、たとえば異なる教科との間につながりを感じたり構造の同定をすることは、学年が上がるにつれて当たり前のことになっていく。それが自分の「価値観」となっていくのです。「対話」をすることで、自分とは異なる他者を鏡として、そこに映し出される未知の自分の姿を発見します。「人と関わることを通してさまざまなことを学んでいく学校です」といちばん最初に書きましたが、そのことは実は「自分をつくる」という行為に他なりません。 2020年はいろいろな困難のあった1年間でした。いまでもまだ楽観はできませんが、これまでの経験をから学ぶこともたくさんありました。そうしたものから得てきた「知恵」を活かしながら、少しでも少しでも 創造的な取り組みができるとよいなと思っています。中野 裕中学校 校長Nakano Yutaka 鬼沢 真之 理事長Onizawa Masayuki

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