季刊もりのあと別冊2022
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6Interview:032021年度卒業。染織を学びたくて自由の森学園高等学校に入学。千葉県出身のため在校中は寮で生活していた。現在、京都にある川島テキスタイルスクールの専門コース本科で学んでいる。コロナ禍が明けたら、海外でも染織技術に触れたいと考えている。「絣(かすり)」に惹かれて自由の森へ手づくりの味わいを知る同じじゃないから愛おしい染織に取り組む中で自分を知りつづける 自由の森へは、高校からでした。実は、父も兄も自由の森の卒業生なんです。私は別の高校を考えていたのですが、兄が持っていた選択講座の資料に「絣(かすり)」という文字を見つけて「なんだろう?」と思ったことがはじまり。絣というのはあらかじめ染め分けた糸を使って模様を表現する織物です。世界中で織られていて、日本では久留米絣、琉球絣、大島紬などが有名です。「これをやってみたい!」と思ったのが、入学の決め手。正直いうと、当時はこんな知識もないまま直感だけで飛びこみました。 自由の森での初めての染織は、驚きの連続でした。ビワの葉っぱを煮出して染液をつくったり、藍はツーンと鼻に抜ける臭いがキツかったり。色も絵の具とは全然違うんです。原料と染め色が異なることや、同じ染料を使っても仕上がりが変わることなど、びっくりの連続でした。 初めて糸に色がのったときは、本当にうれしかった。私の初めての作品は、テーブルマット。なかなか良く織り上がりましたよ。 高2の時の課題はマフラーでした。糸も手づくりするのでほぼ1年がかりです。まずは原料にする羊毛にからんだゴミを取るところから。けっこう虫がついているんですよね。それを洗って乾かしてから色をのせ、糸を紡いでいきます。太さがまちまちなのも味です。色を混ぜたり継ぎ足したり、織りながら試行錯誤できるのも楽しかったですね。 高3では、とうとう絣ができるかと思っていたのですが、なんと教員から「コロナ禍で授業数が限られるから難しいかも」と。絣は、緻密な作業を繰り返して模様を作るので、とても時間がかかるのです。 でも、「絣やりたいんだけど~」「絣やりたいな~」と、何度も教員にアピールして大成功。「今取り組んでいるマフラーをちゃんと完成させて、それでも、できると思ったらやってもいいよ」と、お許しをいただきました。 いよいよ絣体験です。経糸(たていと)でデザインを表現するので、経糸の一部を縛って染色します。入れたい色数に合わせて縛る回数も増えます。私は木綿糸を赤と青と黄色に染め分け、椿をイメージしたタペストリーを織りました。 染織の魅力は多様な色です。絶対同じものにはならなくて、そのときその人しか留めることができない色をつくれる。もとの色がわずかに残るムラも好き。その中でも強い印象を与える赤をキーカラーにしました。放課後も染織室に通い、ひたすら縛る、染める、織るを繰り返して念願の絣が形になっていきました。 絣に取り組んできた時間は、とても充実していて、「あぁ、自分はこういうことが好きなんだ」と感じるようになっていきました。つくる時間って、つまり自分と向き合う時間ですよね。葛藤も多いけど、自由の森には「これをやりなさい」とか「これをやっちゃだめ」と言う人がいないので、自由に好きな色を選び、その過程で気づいていなかった自分も知ることができたように思います。 そういう時間を経て、「こういうのを、卒業後も続けていきたい」と、染織を専門に学ぶことを意識するようになりました。 調べてみると、伝統工芸に強いのはやはり京都の学校。大学より川島テキスタイルスクールのやわらかい雰囲気がしっくりきました。日本のさまざまな染織を網羅できるこの学校は、10代から60代まで幅広い年齢層が学んでいます。進級試験はなく、ちょっと自由の森っぽい感じも。3年制というのも、私にとってなんだかちょうどいい時間に感じました。小川 千歳さん Ogawa Chitose

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