季刊もりのあと別冊2022
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2Interview:012020年度卒業。現在、多摩美術大学グラフィックデザイン学科1年。中学から自由の森学園に入学。高校時代は土曜美術やジェンダーの講座を選択していた。広報係として学園祭のパンフレットを制作した経験も。現在はエディトリアルデザインに興味を持っているという。在校時、選択講座「土曜美術」にて、「生きる」というテーマを与えられて描いた1枚。原爆ドームをモチーフにした。自由の森の美術が私に語ったこと自分が納得できる作品も、人とつながる作品も関わりの中にある表現へ 物心ついた頃から絵を描くのが好きで、自由の森学園の中学校に入学した理由のひとつも美術に取り組める環境が充実しているからでした。そんな楽しみにしていたはずの美術の授業、実は当初、あまりしっくりとこなかったんです。 ササッと描いて「よし、上手にできた」と思っていても、教員があまり褒めてくれなくて「あれ? 何がダメなのかな」と。正直面白くないですよね。でも当時の私が褒められるかどうかを目安にしていたことに、気づかれていたんだと思います。 でも、学年が進むにつれて、美術だけではなく他の教科の授業やさまざまな場面で「どう思うか」とか「何を伝えたいのか」という思いを大切にするなかで、そんな自分も少しずつ変わっていきました。 人と比べて上手いかどうかじゃない。自分が自分でいいんだと思えるようになると、なんでもかんでも他人に理解されるように振る舞う必要がなくなってきます。正解を探して評価を気にするのではなく、シンプルに自分が表現したいことに向き合っていけばいい。それに気づけると、余計なものが剥がれ落ちて、集中して絵を描き続けられるようになる。「技術だけではなく、そのプロセスが大事」という気づきは、今の私にもつながっていると思っています。 高1では、1年かけて自分の目を描く課題に取り組みました。鏡で自分の目をじっくりと観察しながら、どんな色でどう描くか、考えながら描き進めていくんです。 目って人それぞれで、色も形もだいぶ違うんですよね。放課後も残って描きこんで、だいぶいい感じだと思っても、次の日に絵の前に座ると、まだまだやることが見えてくる。改めて瞳の情報量に圧倒されてまた描くんです。そんな繰り返しの中で、自分の中にあるものに答えて作品をつくる喜びを知っていきました。 この頃には、学園祭でパンフレットをつくる係に携わったり、ジェンダーの授業で、アライ(ALLY :LGBTQを理解・支援する人々)を表明するバッジのデザインをしたりもしていました。表現が、関わりをつくるきっかけにもなる。誰かに喜んでもらえたり、誰かの生きやすさにつながるかもしれない表現があるんだと感じていました。 進路を考える時期になった頃、「美大に行きたい」と決意。ファインアートからさまざまなデザインの分野まで迷った結果、グラフィックデザインを志すことにしました。 選択講座でも美術系の授業を取るなど、ずっと美術の分野に触れてきたこともありますが、他の科目でたくさんディスカッションをしたり、レポートを書いたりしたことも進路の選択に影響を与えていると思います。私はもともと物事を深く深く考えこむタイプでしたが、思考するだけでは終わらせてくれない、伝え合うことを求めていく授業では、見える世界が次々と更新されていくような感覚を覚えました。 例えばジェンダーの授業。私は「女性は身だしなみを整えないといけない」というプレッシャーが、ある種の生きづらさにつながっていると思っていたの村上みすずさん Murakami Misuzu「伝えること」「伝わること」を「伝えること」「伝わること」を考えていきたい。考えていきたい。

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