季刊もりのあと別冊2022
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11自分が作ったということを差し引いても、ちゃんと手入れをして有機で作った作物はおいしい。「うまみが濃くて、売っているものとは違う野菜のようでした」「これが正解」というものはない、農作業の世界。常に目の前の作物と向き合いながら考える時間。総合学習で稲作を楽しむ毎週畑に向かう高校生活種にまつわる深刻な問題地域の人々とつながる農業を 僕が自由の森学園で出会ったものは「農業」です。そのおもしろさと大切さを実際の田畑で体験して、就農が将来の目標になりました。 初めての田んぼは、中1の総合学習「森の時間」。すべて手作業で、種から稲を育てました。代掻きといって田植えの前に土をやわらかくする作業は、丸太にロープをくくりつけてみんなで押したり引いたりします。泥だらけになりますが「田植えって楽しいじゃん!」と実感しました。 育てるのは餅米。収穫祭では餅つきで盛り上がりました。できあがりの形も硬さもバラバラだけど、本当においしかった。みんなと楽しみながら取り組めるのも良かったですね。 中2になると、農作業にくわえて、その経験を1年生に伝えるという仕事も。人に教える経験は、それぞれの作業の意味を自分で改めて理解することにもつながりました。 農業への関心は、高校でさらに深掘りしました。自然栽培の農園さんへ体験学習に出かけるほか、「農業」「タネ」という選択講座も履修しました。前者は主に稲作を、後者は野菜づくりに取り組みます。 基本は有機栽培なので6月は雑草との戦い。カビや病気のもとになるので根こそぎ抜きます。抜いた雑草は畑に敷くと土の乾燥や害虫を防ぐことができて結構役に立つんですよ。 肥料は有機肥料を買うか、手づくりの腐葉土を利用します。腐葉土はみんなで落ち葉を集めて米ぬかを混ぜて発酵させるんです。 7~8月にはトマトやキュウリを収穫。秋は再び畑をきれいにして冬に収穫するダイコンやニンジン、ハクサイなどを植えます。群れで襲来するシカ対策も重要で、柵をしたり、狼の尿を買ってまいたり、何重にもやっておかないとせっかく育った野菜をかじられてしまいます。 たくさん苦労がありますが、こうやって栽培した作物はうまみが濃くて、市販品よりずっとおいしい。自分の手で農業に取り組む楽しさにどんどんのめり込んでいきました。 ある日、「タネ」の座学で強い衝撃を受けました。「FI種」「固定種」「在来種」の違いを教わり、前年に廃止された種子法について知ったんです。 F1種というのは異なる遺伝子を配合させ、大量生産に適した性質を持たせた種です。成長が速くて作物の形や大きさも揃うため、流通に乗りやすく、今スーパーに並んでいる野菜のほとんどがF1種由来のものです。ただしメリットを持つのは一代限りで、農家は毎年、種を買わなければなりません。 それに対して固定種は、野菜から種を採ることを繰り返して性質を固定させたもので、個人の農家でも再生産が容易です。その中でも特定の地域の風土や気候などに適応したものが在来種。いわゆる伝統野菜といわれるものですね。 これまでは種子法のもと各地域に合った優良な品種の生産・供給が国や自治体によって守られていました。それが民間企業の参入を促すという名目で議論も尽くさないまま廃止されてしまいました。海外では化学薬品メーカーが種と農薬をセットにしたビジネスを推し進めています。「F1種が多い日本で、この問題をほっといていいのかな?」と切実に思いました。高齢化で耕作放棄地も増えており、食料自給率の低さも問題になっています。農業を受け継ぐことの切実さを目の当たりにして、自分の進む道がはっきり見えてきました。 進学したのは農業大学校です。全国の道府県にあるのですが、私が選んだのは、日本の中でも農業がさかんな長野県。全寮制で、同じ志を持った人たちと交流しながら最先端の農業に思う存分取り組める学校です。自分の畑もあるんですよ。就農支援も手厚いので、僕のようにまったくコネクションがなくても心配ありません。 将来は、地域のコミュニティとつながりながら、環境配慮型の農業を営みたいと思っています。子どもたちに農業の楽しさを伝えたり、できれば自由の森の食堂にもこだわりの野菜を卸してみたい。そのためにもまずは地域に貢献できる働き方を考えていきたいですね。

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