季刊もりのあと別冊2021
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やっているはずなのに、なぜそんな違いが出てしまうんだろう? そんな疑問から郷土芸能への興味が強くなっていきました。 太鼓や踊りに関連しそうな選択講座もどんどん履修しました。「農業」「古文・漢文鑑賞」や、表現という点で通じる「朗読」。「自然」では人間が音を聞いてどう感じるかや、合唱が共同体をまとめるツールになることを知りました。なかでも「小岩井生態学」では、生態系と文化が密接に関係していることを実感しました。たとえば、ニホンオオカミが生息していた秩父では狼信仰がいまも残っていて、地域に残る伝統芸能にも影響を与えています。こういう背景に触れるとガツンとやられますよね。踊りのカッコよさばかり気にしていた自分が、背景になる歴史や宗教などを考えながら踊るようになりました。沖縄で新たな視点を 「芸能をつくりあげてきた地域の文化や背景を読み解きたい」。進路選びもその延長線上にありました。自由の森で触れる郷土芸能は、東北がメインでしたが、目が向いたのはエイサーや三線など独自の伝統芸能が息づく沖縄。 現在、沖縄県立芸術大学で、芸能文化を支えるアートマネジメントを学んでいます。この地の、日本、中国、インドネシアなどの文化をチャンプルー(沖縄の方言で「ごちゃまぜ」)してきた、独特な地域の伝統に触れていきたいですね。三線や琉球舞踊だってもちろんやりたい。頭を動かすだけでなく、汗と涙も込みで泥くさくいこうと思います。自由の森は分岐点だらけ 自由の森の文化とは、と問われたら「選択肢があること」と答えます。はい・いいえじゃなくて、ものすごく多様な分岐点があったと思います。 自分達で選択肢をつくっても構いません。高3では、コロナ禍で中止になった体育祭、文化祭、音楽祭の代わりに「白紙彩」という行事をみんなで立ち上げました。毎年恒例だった郷土芸能部・民族舞踊部・中国舞踊部の合同発表会は無観客でオンライン配信にしました。観客に見られる緊張感がなくなった分、自分たちが思い切り楽しもうと話し合い、かえって満足のいく仕上がりに。コロナ禍も悪いことばかりではなかったな、と思っています。 「誰もが一糸乱れずに」ということに強く価値を置くことは、どういう場面でもあまりないんじゃないかな。 どんな時にどんな選択をするかは、ここでは自分自身で考えることが大切です。「そこにカロリーを使うのがイヤだ」っていう人もいるかもしれません。でも、そういうことを6年間重ねてきたことで、僕は人生の見え方がかなり違ってきたと思っています。超面倒くさい文化だけど、これから自由の森をつくっていく人たちにも大事にしてほしい文化ですね。「コロナ禍でも安全に楽しめる行事を」と、生徒の手で作られた新しい行事「白紙彩(はくしさい)」で黒組団長を務める。図書館を拠点に制作していた、フリーペーパー『VOICE』。生徒の手で、企画、編集、執筆、発行まですべてをこなしていた。残念ながら、去年でひとまず休刊。勇壮な伝統芸能にハマって 郷土芸能部と民族舞踊部に中高6年間所属していました。本当は僕、オカルトサークルに入りたかったんですよ。体験授業の「わくわくワーク」に来たとき、掲示板でオカルトサークルのチラシを見て「こんなサークルがあるのか! ここにしよう」って進路を決めて。それが入学したら、なんと「あぁ、2年前まであったねぇ」とのこと。なぜ掲示板に貼りっぱなしなの……と、いきなり挫折です。その代わりと言ってはなんですが、部活は小学生の頃から親しんでいた和太鼓が叩ける郷土芸能部、さらに民族舞踊部へ。 そんなわけで最初のうちは部活に全然身が入りませんでした。「自由の森の太鼓や踊りは泥くさくてイヤだなぁ」とまで思っていました。ところが「中野七頭舞(なかのななずまい)」を知って変わったんです。岩手県岩泉町に伝わる神楽舞です。薙刀、太刀、杵など7種類の小道具を手に、五穀豊穣や大漁を祈願する勇壮な踊りです。小道具や所作に開拓の歴史が込められ、こんなに力強くてかっこいい踊りがあるんだとびっくりしました。選択授業も郷土芸能にひもづけて 三宅島にお祭りを見にいったことも大きかったんです。地元の人たちは、自分たちの文化に当たり前にある芸能として育んでいきたいのに、観光客には商業的なパフォーマンスとして扱われるという話を聞きました。同じ太鼓を5

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