季刊もりのあと別冊2021
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ビオトープから生態系を考える 自由の森学園がある飯能市は、「西川材」と呼ばれる木材の産地。スギやヒノキの森林が広がっています。学校も名前の通り森に囲まれていますよ。毎日の暮らしの中に自然があることは、それだけで自分自身が自然の一部だと実感できるものです。 高校の選択講座には、この自然を教材にしたいくつかの自然系の講座があります。私がとくに影響を受けたのは、まさに「自然」という名前の選択講座。学校の敷地の真ん中辺りにビオトープがあるのは、自由の森を訪れたことがある方ならご存知だと思います。冬は枯れ葉だらけの場所ですが、春になるとカエルが卵を産みにやってきます。 私がこの講座で取り組んだのは、ここにかける「木道作り」。生徒たちが気軽にビオトープに立ち寄れるように、と始まった取り組みです。3年間かけてみんなでビオトープを回遊できる道を作りました。植物や虫の繁殖をジャマしない環境づくりを入念に検討し、木に腐りにくくする焼き目を入れたり、金属の部品をなるべく使わないよう工夫したり。木道という、人間と自然の接点を作るためのさまざまな作業は、目先の目的を超えて、自然との関わり合いの在り方について考えるきっかけにもなったと思っています。アブラゼミの鳴く学園 人気の選択講座「小岩井生態学」では、学校のある小岩井地域の生きものを研究しました。私は学校の敷地内に棲むセミを調べるため、3週間くらいかけて抜け殻を採集したのですが、気づけば、その数なんと1000以上! 学習発表会でどっさりと展示したので、苦手な人にはなかなかビックリされました。 これだけの数の抜け殻を分類していると「これはアブラゼミ、それはミンミンゼミ、こっちはツクツクホウシ、これオス、それメス」と、すぐに見分けがつくようになりました。その結果、なぜか自由の森にはアブラゼミが圧倒的に多いことが判明。なんとなく「いっぱいいるな、セミ」って思っていたことも、実際に調べてみるとその先の「なんでだろう」が見えてきます。これが楽しいですよね。虫を殺さない農業を体験 高3の秋休みには、有機無農薬栽培を実践している所沢市の農園で、3日間の体験学習に参加しました。 訪れたのは10月上旬。ちょうど陸稲(おかぼ)の収穫時期でした。陸稲というのは畑で栽培される稲のことです。でもそこは無農薬の畑。雑草だらけなんです。収穫の前に、私たちは鎌を持ってガシガシ草を刈っていきました。 ランチは、採れたての野菜をたっぷり使ったまかないです。虫や草を一方的に殺したりするのではなく、自然環境と関わりながら畑を耕し、安全な作物を育てて、自ら食べる。大変だけど、とても楽しいし人間的です。 ここにいる時、自然の授業で取り上げられていた宮崎県椎葉村の「焼畑」を思い出しました。木を伐採した斜面を焼いて作物を栽培したあと、20~30年かけて森林に戻していく循環型の農法で、世界農業遺産にも指定されています。完全無農薬で作物ができるだけでなく、焼いた跡には300種もの植物が生えてくるのだとか。山が育つまでは、動物たちの餌場にもなるそうです。 「どんな形になるか分からないけど、私も自然と共に生きる生き方をしていきたい」。 実際に地域で自然と共存して生きる人々と、出会い、交流したことは、私の次の一歩にも影響を与えたように思います。自然をどのように利用するのか 今、在籍している生物資源開発学科は、「生物多様性」をキーワードに、生きものや自然に関する幅広い学びに取り組む学科です。現在は、コロナの影響でやれることは限られていますが、各地の農場や演習林でどっぷり自然に触れる体験ができそうで楽しみです。 いつだったか、ある理科の教員が語っていたことが印象に残っています。「アインシュタインが見つけた自然の原理を、人間は人間をたくさん殺す道具に応用してしまった。自然をどのように利用していくのかは、私たちの大きな課題である」と。 生物資源との付き合い方も同じでしょう。私は、自然の力をそんな愚かなことに使いたくない。人は自然に生かされている、ということを忘れず、これからの人の暮らしを構築する仕組みを考えていきたいです。森に囲まれて学ぶ中で気づいた森に囲まれて学ぶ中で気づいた「自然を知ることは人間を知ること」。「自然を知ることは人間を知ること」。一口に「木道を作る」といっても、なかなか大変な作業。結局、高校3年間ずっと木道を作っていたという。「おいしい」と「やさしい」を同時に探究し、持続可能な農業を目指す「オギノエンファーム」さんにて。16

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