季刊もりのあと別冊2019
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舞台は、舞台に出る人、裏方の人、何十人もが結束して初めて実現するもの。ひとつの劇を作り上げるのは大変だけど、一度やるとクセになる。部活に選択講座……演劇が活発な自由の森 「凜ちゃんといえば演劇だよね」と友人からいわれるほど、舞台に打ち込んだ3年間でした。もともと小学校の頃からミュージカルが大好きで、劇団四季の「ライオンキング」の迫力に衝撃を受けて以来、たくさん劇場に足を運んでいます。実は高校選びも第1志望は舞台芸術科のある県立高校。自由の森に来たのは不本意な結果だったんです。でもこの学校に来なかったら、これほど夢中にはなっていないと思います。 まず選択授業に「演劇」があります。講師は女優の桐谷夏子さん。日本の小劇場運動をけん引してきた劇団「黒テント」の創設メンバーというすごい方です。授業では昔話を現代劇にアレンジしたものや、ラジオドラマ、即興劇などを演じるほか、1年の集大成となる終了公演で寺山修司やチェーホフなど重厚な演目に取り組みます。音響や照明を専門のサークルが担当する本格的な舞台です。 さらに演劇部の活動もさかんです。所属すると4〜6月に春公演、9〜11月にかけて秋公演の準備や稽古に追われることに。それらが終わってから1〜2月に終了公演という具合で、本当に年間を通して舞台に関わることになりました。舞台本番で得られる感動がクセに 正直いうと、演劇講座はなかなか大変です。自由の森にしては時間厳守だし、健康管理もシビアだし。終了公演前は毎日のように稽古があるうえ、年末年始もセリフや舞台の時代背景などを頭にたたき込まなければいけません。演出プランや小道具などの制作も含めて2週間程度で仕上げていくんです。だから年明けに多目的ホールの扉を開けると、ピリピリした演劇受講生たちが待ち受けていますよ。 それでも続けてきた理由は、素の自分とはまったく別の人生を生きるおもしろさでしょうか。高2の公演ではウエディングドレスを着て、結婚式直前に悩む花嫁を演じました。登場人物の性格、育ち、生活が私の身体によってかたちになり、動き出すことがとても楽しい。終演を迎えると「演じていたあの人にもう会えないんだな」とさみしくなります。 とくに高3の秋公演では心から「役になりきる」という体験ができました。腹式呼吸などの技術も含めて、これまでに積み上げてきたものを全部出せたというか。そうやって演じきったときのカーテンコールで浴びる拍手や喝采は忘れられません。この喜びを知ると演じることがクセになりますね。自分の意思を尊重する気風が活動の礎に 自由の森ならではの雰囲気も大きかったと思います。テストでの競争や、髪の色をうるさくいうような校則はありません。ありのままの自分を見てもらえるし、やりたいことを自由にやれます。いきなり答えを出してこの通りにしなさいというのではなく、私が考えることを待って、受けとめてくれる。日本語などの授業もそうですし、演技指導でも桐谷さんは「もっと自由でいいのよ。自分がやろうと思ったことをそのまま動きに出せばいい」と、そこは一貫していましたね。 ちなみに、桐谷さんには大学入試でもお世話になりました。演技の実技試験について相談したところ、「このセリフはどういう気持ちを表していると思う?」とアドバイスをもらい、裏付けのある表現ができたと思います。 卒業後は、大阪芸術大学でミュージカルを学びます。まだ漠然とはしていますが、「この道しかない」と考えて、大好きな舞台に将来も携わっていくつもりです。高校受験で第1志望に受かっていたら、まったく別の人生だったかも。 このインタビュー(2018年12月)のすぐ後に、いよいよ高校時代最後となる終了公演の準備がスタートします。うーん、千秋楽は泣いちゃうのかな。分からないな。なんだかあのバタバタがずっと続くような気がしています。13

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