季刊もりのあと別冊2018春 一人ひとりの生き方としての進路
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演劇が生活の中心にあった2年半 高3の夏まで、部活で演劇に打ち込んでいました。1年の時に小道具の手伝いを頼まれたことがきっかけです。それ以来、演劇が生活の中心でしたね。部活以外でも選択講座の「演劇」を履修して、高2では役者を務め、高3になると演出を担当するようになりました。 演劇講座の演目は、僕が演出をするまでは登場人物が死んじゃう話が多くて、自分が演出する公演ではもっと違うタイプの楽しい戯曲にしたいなと思ったんです。あれこれ悩んで、神保町の演劇専門の古書店や新宿の大きな書店もだいぶ巡りました。それだけ探したのに最終的に選んだのは、結局学校の図書館にあった1冊。高橋いさをさん原作の「ここだけの話」でした。挙式の直前に結婚をためらう花嫁と、同じホテルで離婚話を進めようとしていた男性との対話劇を上演しました。舞台に登場するのは数人ですが、約30人ものスタッフが裏方として参加した作品です。 僕はもともと、自分だけで突っ走るタイプの人間だったのですが、1人でできることには限界があることがよく分かった。それにたくさんの人と一緒に1つのものを作るって、大変だけど楽しいんですよね。始めはすぐやめるつもりだったのに、ずいぶん長く楽しみました。演劇は、僕の自由の森での生活の大きな一部だったと思っています。入学の決め手は討論を大切にした授業 高3の夏を過ぎると、演劇を離れて社会科系の選択講座に力を入れて取り組むようになりました。なかでも印象に残っているのが「政治・経済演習」です。討論を通して、憲法の捉え方や制度の問題点などを考える授業です。 たとえば生活保護の仕組み。漠然としか知らなかったその内容を調べていくと、20歳以降は歳をとるごとに減額される仕組みになっている。なぜそんな仕組みになっているのか、どこに問題がありどんな解決方法があるか皆で話し合いました。 「演劇から社会問題って、振り幅が大きいね」と周囲の人にびっくりされたりもしたのですが、そもそも自由の森学園を選んだのも、公開教育研究会の公開授業で、社会科の授業を見たことが決め手だったくらいなんです。「テストに出るから勉強する」のではなく、決まった正解のない問いに対して、みんなで意見を出し合いながら進んで行く授業は驚きでした。 当時、もともとは世にいう進学校に進もうと考えていたんです。塾にもほぼ毎日通って勉強していたのですが、すれすれで「やっぱり自由の森学園にします」と宣言して、塾の先生には驚かれました。でもその時の選択は間違っていなかったと思っています。レポートのテーマが進路選択のきっかけに 高校の社会の授業では、毎年1本のレポートを書きます。テーマは自由に決めてOK。僕が2年のとき選んだテーマは「ナチズム」でした。画家になりたくて美大を受験しまくっていた青年アドルフ・ヒトラーが軍隊に入って変質したこと、危険な思想にもかかわらず彼が当時の民衆に支持されたことなどを、僕なりに当時の世界状勢をふまえて考えたものです。 しかもナチズムのような排他的な思想は、昔のこととして終わる話ではなくて、現在も世界中で問題になっている。日本だって例外じゃないんですよね。誰もが「もう戦争なんか嫌だ」と思っているわけではないということに、ちょっとびっくりしました。 このレポートについて学びを深めていくうちに湧いてきた、ドイツへの興味が卒業後の進路選択につながったと感じています。まず実際にドイツへ行きたい。同世代の人に歴史教育について尋ねたり、戦争を経験したおじいちゃん・おばあちゃんにインタビューしたりして、リアルな反応を探しにいきたいと思います。 そこでまずは言語を、ということでドイツ語学科に進学しましたが、獨協大学は言語に限らず歴史や思想も含めてドイツをいろいろな角度から学べるので、思った以上に充実した毎日を送っています。これからしばらくはドイツが生活の中心になりそうですね。その時にやりたいこと学びたいことが連なって生き方になってきた選択講座「演劇」による公演、「ここだけの話」のキャスト&スタッフと。9

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