季刊もりのあと別冊2018春 一人ひとりの生き方としての進路
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Interview /03會田 恵さん Aida Megumi2017年度卒業。埼玉県農業大学校野菜学科に進学し、露地栽培専攻で野菜づくりを専門に学んでいる。自由の森学園には中学から入学。在学中は民族舞踊部に所属。篠笛奏者として学園祭や合同発表会を盛り上げた。衝撃を受けた「耕さない農法」 右のページの写真に写っている石窯、本当にパンやピザが焼けるんですよ。私が在学時に履修していた「共生型社会入門」という選択講座(※2018年度は休講)で、みんなで作りました。 燃料の薪を近くの森で拾い集め、学校に生えているびわや桑の実から酵母を醸すところからパンをつくるんです。担当講師の上野さんは元社会科教員のカフェ店主。直径20cmくらいある本格的なパン・ド・カンパーニュ(ドーム形の田舎風フランスパン)の作り方を教えてくれました。 高2の時にこの講座で見たビデオが、今、私が農業を学んでいることの入り口になりました。そこで紹介されていたのは、大地が持つ育む力に委ねて「耕さず、肥料・農薬を用いず、草や虫を敵としない」を原則にしている「川口式自然農」と呼ばれる農法でした。以前からなんとなく農業に興味を持っていたのですが、生態系を壊すことなく豊かな畑をつくることを目指したこの農法に衝撃を受けました。 その後、夏の体験学習で、自然農を実践している「小島農園」という農場が体験先のリストにあることを知って参加を即決。運良く自然農の現場を体験できる機会を得ました。実際に畑に出てキャベツの種まきや夏野菜の収穫、出荷準備などをお手伝いしました。「自然に任せるってやっぱり大変なんだな」と思いつつも、安全で本来の形そのままの姿で育つ作物への興味は深まるばかりでした。 体験学習が終わった後も、小島農園さんとのお付き合いは続いています。農業を志す今、この時の体験は大きな財産になっているように思います。農業大学校で露地栽培を学ぶ 進路選択が現実味をおびてくる高2後半の頃、「やはり農業だな」と心が決まり、農業を学べる環境を探し始めました。私立大学や専門学校でもいいのですが、学費を心配していたところ、教員からその後進学することになる「埼玉県農業大学校」を紹介してもらいました。野菜や果物の栽培から米づくり、造園、酪農などを学べ、農耕用の大型特殊運転免許などの資格も複数取得できる学校です。 私は、この学校の野菜学科露地栽培専攻に進学しました。この専攻では露地野菜の栽培技術や農業経営、流通などについて実践的に学習します。興味のある自然農の研究を、とも思いましたが、その前に一般的な農業の進め方を身につけようと考えたのです。 この大学校は、農業と本気で向き合う人たちが集まる場所です。農作業で使う作業着や道具も、すべて自分専用。緊張感のある場に来て、いま身が引き締まる思いを感じているところです。実体験から進路選択できる環境 自由の森の高校選択講座は全部で100講座以上あります。なかでも私のお気に入りだった「共生型社会入門」のほか「農業」「陶芸」「木工」「染織」「絵画」などといった、手ざわりのあるものを作り上げたり、自分の感性を生かしていったりする講座を履修している人は、選択講座が進路の大きなきっかけになっている人が多いように思います。ものづくりがしたくて職人さんに弟子入りした先輩や同級生も一人や二人ではありません。 また自由の森にテストがないことは有名だと思いますが、テストそのものの有無に対してどうなのかという以前に、テスト対策に時間を取られることがないから、テストがある学校よりも、自分のことを考える時間がたっぷりあるんじゃないかな、と思っています。さまざまな授業や部活、委員会活動などの中で、たくさんの経験ができるし、多くの人に出会える。同時に何をどう感じているのか、自分自身に向き合う時間もある。そこから導き出した自分だけの進路選択ができることは、自由の森で学ぶことの特権なのかもしれません。 自由の森学園という場は、たくさんの影響の中で変わっていくこともできるし、自分のまま変わらずにもいられる場所なのかなと思っています。私が、なにを大切にしていきたいかと考えて出した結論は「ずっと土のそばにいたい」ということでした。しばらくはこの道を追求していきたいと思っています。大地の育む力に委ねる「自然農」に挑んで6

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