季刊もりのあと別冊2017春 一人ひとりの生き方としての進路
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Interview.032016年度卒業。小学生の頃から夢だった保育士をめざし、大妻女子大学家政学部児童学科に進学。将来は保育の現場でも、自由の森学園で培った自然科学の知識や視点を生かしたいと考えている。  動物たちのサインを探して 理科が大好きでした。高校では「化学」「生物」「自然」などの選択講座をたくさん選びました。その中でも一番好きだったのが、3年次に履修した「小岩井生態学」。周囲に緑がたくさんある自由の森学園の立地を生かして、学校のある小岩井地区の野生動物や植生を調査し、自然環境の再生や保全などについて考えを深める講座です。学校のユネスコスクール加盟に(編注・現在すでに加盟)向けた、ESD(持続可能な開発のための教育)講座のひとつでもあったそうです。 夏にはツバメや飯能市内を流れる名栗川の生態調査、秋にはキノコの観察に森での夜間観察調査と、講座では毎週のようにフィールドワークに出かけました。学校の周辺は動物が多くて、夜にはウサギ、タヌキ、ムササビ、モモンガ、リス、イノシシ、ホンシュウジカ、テン、ハクビシン、特別天然記念物のニホンカモシカまで出没します。森林だけではなく、ゴルフ場にも動物はたくさんやってきているようです。夜のゴルフ場は人間がほとんどおらず、芝生も広がっているので居心地が良いよいのだとか。 森林には、動物たちの存在を示すフィールドサインがいくつかあります。たとえば足跡からは動物の通り道や種類、糞からは身体の大きさや食性などがわかります。食痕といって、食いちぎられた草や枝なども見逃せません。学習発表会ではこうしたフィールドサインを森から採取してジオラマを展示しました。シカの糞や、ムササビがかじった葉なども集めた自信作です。  いじわる?な担当教員 この講座には、かなりの動物好きが集まっていたのも面白いところでした。授業で知り合った仲間と日没後の森へ野生動物を見にいくこともしばしば。雨が降った日に「ムササビが巣に戻る姿が見られるかも!」と、木の下で待ち伏せしたこともあります。ムササビが飛翔すると、くもりの日はとてもきれいなシルエットが見られるんですよ。 「小岩井生態学」を担当する教員の強いこだわりも、私たちをぐいぐいと自然に夢中にさせるきっかけでした。「徹ちゃん」と呼ばれて、みんなに親しまれている教員なのですが、たとえば、夜間の動物を観察するために高額な自動カメラを自費で購入し、校内に設置するような方です。でも「生徒のために」というよりも、自分が一番ワクワクしているんだと思います。 そして、いい意味でちょっといじわるです。何かを見つけて「これはなに?」と聞いても「なんだろうねえ?」とはぐらかされます。自分で考えて「ここはこうなっているから、こうだと思うんだけど、どうかな?」と聞くと、やっと答えてくれるんです。「A=B」と教えるのではなく、「A→→→B」のように、Aから見えるものをたどっていくとBにたどりつく。そしてときには別のCにもつながるというように、自分で考えて、答えにたどりつく過程を楽しませてくれました。  人間の根っこを育てたい 自然科学への興味が育ったのは、母の影響が大きいかもしれません。小さい頃、保育園から帰宅する道すがら、「あの草をさわってごらん」といわれて手にとったカタバミの実がパチパチはじけて驚いたことが、植物や生き物に目を向けるきっかけになりました。その興味が選択講座でより大きくなったように思います。高校生になっても田んぼに寄り道してカエルの卵を探したり、道路の端を歩いて植生などを見たりしていましたね。ちなみに当時通っていた保育園は、自由の森学園の体験学習の受け入れ先にもなっています。不思議な縁があるものです。 理系の研究職に就く道も考えたのですが、大学では保育士をめざして勉強することにしました。人と関わることが好きだし、人間の根っこを育てる仕事に大きな魅力を感じています。私は中学・高校と、やろうと思ったことをどこまでもやれる環境にいて楽しく過ごしてきました。これからは、徹ちゃんのように自分でもワクワクしながら、人をワクワクさせられる人間になりたいですね。地域の自然の中で、考える楽しさを知る学習発表会で、動物たちが残すフィールドサインをジオラマにして展示した山田さん。山中の地面を再現した机上に、実は動物の気配のヒントがたくさん散りばめられています。山田 瑠璃さん Ruri Yamada6

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