季刊もりのあと別冊2017春 一人ひとりの生き方としての進路
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Interview.01有薗 千種さん Chigusa Arizono2016年度卒業。武蔵野調理師専門学校の高度調理経営科に進学。一流店の料理人に必要な知識と技術を身につけるべく、腕を磨いている。今の目標は、地元の鎌倉野菜を生かしたオーガニックレストランのオーナーシェフ。  天然素材が当たり前の食生活 料理人になって地産地消のオーガニック野菜のレストランを開きたいと考え、武蔵野調理師専門学校に通っています。小さい頃から料理を作るのも食べるのも大好きで、小学生の頃は犬カフェをオープンするのが夢でした。別の職業を考えたこともありましたが、自由の森学園に来て「食」への想いは、より確かなものになりました。こだわりの食堂と選択授業、そして食いしん坊な友だち。この3つの存在が大きかったですね。 オーガニック野菜に興味を持ったのは、自由の森の食堂の影響です。寮で過ごした高校3年間は、無添加やオーガニックが当たり前の食生活でした。厳選した素材を使い、手間ひまかけたご飯によって私のカラダを「つくってもらった」という想いがあります。食堂の皆さんは、いつも生徒たちのことを見てくれていて、私が少し顔色が悪いと「今日おかゆにしとく?」とか「しょうが湯飲む?」と、やさしく声をかけてくれました。ベジタリアンの友人には魚の代わりに車くるまぶ麩の煮つけを出してあげたり、かつお節でなくシイタケや昆布の出汁で料理を仕上げてくれていました。それがまたどれもおいしいんですよね。食べものを通じて、人の温かさも感じていた時間でした。  手づくりパンのおいしさに感動 食を探求したいという気持ちに火をつけたのが、高校2年から始めた選択講座「発酵」です。納豆、チーズ、ヨーグルト、キムチ、甘酒などさまざまな発酵食品をつくりました。とくに印象深かったのが酵母をおこすことから始めるパンづくり。酵母って簡単につくれるんですよ。煮沸消毒したビンに有機野菜や果物、水、ハチミツを入れて冷蔵庫で3日置き、その後よく振って空気に触れさせることをくりかえします。室温にもよりますが、夏なら1週間、冬は2週間程度でできます。食堂からゆずってもらったノンオイルのレーズンで酵母をつくると、モチモチのおいしいパンになります。市販のドライイーストと違って、前日に生地を仕込み、朝に二次発酵させてようやく昼過ぎに焼けるので手間はかかりますが、初めてつくった丸パンは感動的なおいしさでした。やはりじっくり手をかけた食べものはすばらしいんです。試食した友だちからも「すごい!おいしい!」と言ってもらえたことが、本当にうれしくて、やっぱり自分は料理の道に進むべきだなという思いを確かにしました。 うちの生徒はみんな食いしん坊で、すごくおいしそうに食べるんです。テーブルを囲んで幸せな顔を見ながら食事ができる−−−− そんな小さな店をオープンできたらいいですね。  「食」から  社会的な視野が広がる 自由の森の選択講座には「食べもの」「農業」「健康で美しい身体づくり」といった食に関連するものがいくつもあります。「食べもの」は基本の和食からパーティー料理まで和洋中と幅広いメニューを調理しますし、「農業」では農作業のほか、そば打ちや餅つきも経験できます。さらに食への興味から、添加物や海外の児童労働の問題など社会問題が浮き彫りになっていくのも興味深く、視野が広がります。現在は、フランス語や店舗の経営についても勉強しなくては! と意気込んでいるところです。 調理関連の先生や寮のスタッフも含め、進路の相談にのってくれる人が多いのも自由の森のいいところ。進学にあたって専門学校に提出する作文は、寮監さんに見てもらいながら仕上げました。外部から講師を招く進路講演会では、学生の労働問題の解決を支援するブラックバイトユニオンの方のお話を聞き、理不尽な目に遭ったときの対処法や声をあげることの大切さを知りました。この講演をきっかけにユニオンを利用した生徒もいたそうですよ。 授業のほかにも、料理好きな仲間と調理室を借りて燻製をしたり、食堂から食材を分けてもらって節分の恵方巻をつくったりと、高校時代は自由に調理活動を楽しんでいました。 自由の森学園はどんなことでも興味あることや、やりたいことがかなえられる学校だと思います。これを読んでいる食いしん坊さんにも「自由の森を楽しもう!」と声をかけたいですね。じっくり手をかけて得られる喜びを食卓へ食関係の選択講座はすべて履修した有薗さん。食を広く見渡すことは、専門的な分野を超えて、世界の在り様を見つめる入口にもなっていったといいます。2

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