季刊もりのあと別冊2017春 一人ひとりの生き方としての進路
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Interview.052014年度卒業。高校在学中より自然農法による野菜栽培に親しみ、卒業後も同農法を実践的に学ぼうと「Azumino自給農スクール」(現・自然菜園スクール)に通う。17年より大正大学人間学部人間環境学科の環境政策コースに在籍。  畑ざんまいの日々 高校時代は一人で農作業ばかりしていました。1年の秋に休耕地を学校から借りて、2年生では本格的な「自然農法」に挑戦しました。長野県で無農薬栽培の菜園教室を開いている竹内孝功さんの本をテキストにして、無農薬はもちろん、耕さず肥料もやらず、野菜も固定種にこだわりました。固定種というのは長い時間をかけて日本の気候や風土に適応してきたもので、旬の味わいが楽しめます。また種の自家採取ができるため循環型の持続可能な農業が実践できます。学校のある飯能市内に固定種の有名な専門店があり、麦、ジャガイモ、ナス、落花生、トウモロコシ、キュウリ、スイカなど、20種ほどの種を購入しました。 人間が手をかけない自然農法が本当に成功するのか実験したい気持ちもあって、1年目はがむしゃらに種をまきました。しかし自然は甘くなかったですね。あっという間にどこに種をまいたか分からなくなるほど、一面雑草だらけになりました。とくに長いツルとするどいトゲを持つカナムグラには苦労しました。夜にはイノシシやシカも畑に入り込んできます。トマトやナスはいつのまにか消え失せ、大根は溶けていました。おまけに近所でぼや騒ぎがあり、こちらの畑に延焼する始末。ほとんどなにも収穫できませんでした。 2年目には友人の手も借り、早めにカナムグラを刈り込んで稲わらを敷き、雑草を抑えました。すると決して大きくはありませんがキュウリが育ちました。スーパーの野菜とは異なる、味が濃いキュウリです。1か月ほどで30から40本とれたでしょうか、ほかにもトマトやトウモロコシ、ジャガイモなどが収穫できました。肥料も農薬も使わないと野菜本来の味が出るようで、甘いものはより甘く、辛いものはより辛くなります。友人や家族といっしょに自然の味を堪能しました。  自由の森は自然農法? ここまで農作業に関心を持ったのは、自由の森の前に通っていた小・中学校で野菜栽培に親しみ、さらに無農薬でりんごを育てた木村秋則さんの著書『奇跡のりんご』に影響を受けたからです。有機野菜や無添加にこだわった自由の森の食堂にも共感していました。食の安全や自給自足、環境問題への関心から「自分で作って、自分で食べる」を実践しようと思いました。  選択講座の「農業講座」も履修していましたが、それだけではやりたいことが全部できず、「自然農法に思う存分こだわった畑を作ろう」と、自主活動として取り組むことにしたのです。最初は校庭のすみでこっそりやろうかとも思ったのですが、幸いにも自由の森学園は畑を借りたいといえば貸してくれる学校なんです。農業講座の担当教員に相談したら、予想外に広い土地と向き合えることになりました。 そういえば適度に支えて極力手を出さない自然農法は、この学園のあり方にも似ていますね。とりたてて目立たなくても、豊かな感性や価値観を持ち、深く物事を考えている人が多かったように感じます。いろいろな性質をもった人々と関わりあう中で、さまざまな経験や感覚を味わうことができ、僕の学園生活はとても満たされたものになりました。多くの方に「自由の森の人間は面白いぞ」とお伝えしたいです。  環境をめぐる幅広い課題へ 大学では環境問題についてより知識を深めたいと考えています。人間がよりよい社会を実現するために解決すべき根源的な課題だととらえています。環境系の学科は理系が多い中で、大正大学では政治や経済、教育など社会的な切り口からアプローチできます。こうした幅広い学びを前に僕自身の切り口はまだ定まっていませんが、小手先の知識では太刀打ちできない課題だけに、その分、発見できることがたくさんあるのではないかと期待しています。 もちろんこれからも土にはふれていくつもりです。自然農法の提唱者である福岡正信さんのように粘土団子によって砂漠緑化に取り組んだ実践的な人もいます。自給自足を目指しながら、環境問題の解決に携わることのできる人間になりたいと思っています。「自分で作って、自分で食べる」を自然農法で在校時、選択講座「農業」を履修していた頃の山本さん。土と、野菜と向き合う時間は、環境への意識をさらに深めていくきっかけになったという。山本 空洋さん Sora Yamamoto10

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