morinoat_33
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55SLが好きなんです。人間みたいに「生きている感じ」がするんですよ 写真部と掛け持ちをして鉄道研究会にも入っていました。もちろん「撮り鉄」。なかでもSLが好きなんです。生々しい迫力というか、人間みたいに「生きている感じ」がするんです。 高校時代は、研究会の仲間と国内のあちこちに撮影旅行へ行っていましたが、大学に入ってからは海外ですね。足を運んでいたのは、アジア諸国や東欧です。理由はもちろん、撮りたい列車があるから。観光用ではなく、まだ人々の足として現役でSLが運行している場所を訪れていました。 数日滞在して撮影することが多かったのですが、時が経つに連れて、現地の人達と仲良くなるんですよね。「お前なにやってんだ?」って声をかけられて、よく話をするようになって、酒場に誘われるようになって。気付けばそこに生きる人々や、その街の熱気に触れて、シャッターを切っていました。 そんな体験をして以降、大学が休みになると、馴染みの街に何度も訪れるようになりました。SLを撮りに行ったのですが、そこで出会ったものは、その街に息づく文化そのものでした。ファインダーを通して見つめるもの 今は、毎日膨大な数のシャッターを切っています。1日数千枚撮影することもありますよ。紙面に採用する写真は最終的にはデスクが選ぶのですが、最近は、シャッターを切った時に「あぁ、これだな」と、どのカットが選ばれるか少しずつ分かるようになってきました。 夕刊に掲載される、写真がメインのコーナー「グラフ」では、写真だけではなく取材、原稿執筆も任されます。これまで、冬だけ釣り堀になる市民プールで釣りを楽しむ子ども達や、エジプト展で豪華絢爛な棺を前に目を見張る人々などを撮ってきましたが、先日はなんと引退する機関車の特集を担当することに。もちろんどんな記事でも、真剣に取り組んでいますが、この時はいつもより、写真も記事もちょっと熱を帯びましたね。もっと「出会う」ために 「写真を撮る」という行為は、僕に出会いを与えてくれるものだと思っています。SLを撮りに行った先の国で、そこに生きる人や文化そのものとがっつり出会ってしまったように、想定していたものとは違うものと出会うこともある。だから面白いんですよね。 報道の写真を撮り始めて1年。まだまだ覚えなければいけないことだらけですが、一方で自分の表現としての作品づくりも進めています。今の自分では、発表できない作品もあるんです。それがなぜなのか、どんなものなのかは、まだちょっと内緒なんですけど。櫻井 泰(ゆたか) さん 〈29期生〉1997年東京都生まれ。自由の森学園高等学校卒業後、日本大学芸術学部写真学科を経て、2020年より「中日新聞」「東京新聞」などを発行する中日新聞社にカメラマンとして所属。コロナ禍で混乱する社会を、ファインダー越しに見つめる日々を過ごしている。

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