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10 「まずは、生徒の中から希望者を募って講習会を開き、それを受講した人が着火や管理をするかたちにしようと思っています。ゆくゆくは、上級生が新しく寮に入ってきた新入生に、上手く燃やす技術を教えるという伝承の様なものになっていくといい。自由の森では、ほとんどの行事を生徒主体でつくります。その行事のつくり方も毎年、上の学年から下の学年に伝えられて、下の学年はそこに自分たちの考え方や工夫を加味していく。それと同じようなうねりができると面白いですね」と鬼沢理事長は話します。地元の間伐材使用も視野に 薪に使用するのは、主に地元の製材所から購入した端材です。これは、製材の過程で捨てられるはずだったもので、厳密にいえば飯能市内で伐採された木だけではありませんが、ゆくゆくは飯能市内の間伐材や周辺の造園業者の剪定木なども活用する予定です。端材は敷地内で乾燥させた後、約60cmの長さに揃えられ、薪割り機を使って薪の状態にされます。 「間伐材の活用も進めていきますが、まだまとまった量を燃料として提供するのは難しい状態です。ゆくゆくは間伐木や端材、剪定木などの燃料として使える木材の集積場を市内に作りたい。今、全国的に認知され始めた“木の駅”と呼ばれる施設があるのですが、まさにそれですね。そうすれば、薪ストーブなどで使う薪も安価に提供できるようになります」と鴇田さんは話します。近年は薪ストーブの人気も高まっていますが、薪は購入するとなかなか高価です。薪を安定して供給できる木の駅を作り、「飯能市を薪ストーブの町にしたい」と鴇田さんは考えているとのことです。 菅野さんによれば、木の駅は全国で100ヵ所以上設立されていて、地域の人たちが間伐木などを持ち寄り、それを買い取って薪やペレット、チップなどの燃料にして販売しているとのこと。そうやって間伐材を活用するルートが開ければ、放置される間伐木も減って山の景色も変わるかもしれません。地域の避難所としてエネルギーの確保も 近隣の小岩井地区の一時避難所に指定されている学園。薪ボイラー導入には、「災害発生時のエネルギー確保」という側面も考慮に入れているとか。たとえ停電が起きても、薪で動くボイラーがあれば、学園に避難してきた地域の人たちや帰宅できなかった生徒たちが暖をとったりお風呂に入ったりすることが可能になります。 「2019年、千葉県南部では台風の影響で長期間にわたる停電被害がありました。首都圏であんなに長期の停電が続くとは、私は想像していませんでしたが、そうしたことがこの埼玉県でも起きる可能性があるということです。その際、電源がなくても動く薪ボイラーがあることは、地域の人たちにも生徒たちにも安心材料になると思います」(鬼沢理事長)。地産地消エネルギーのきっかけに 多くの効果を見込み、期待を集める薪ボイラーですが、導入のコストは率直にいって重油ボイラーなどに比べると高額だとか。菅野さんの試算によれば、燃料費などランニングコストが安いことで、15年使うと元が取れるとのことですが、ボイラーは使い方によって寿命が大きく変わる面もあります。鬼沢理事長は「教材としての役割もあるので、元を取ることが必須とは考えていない」と語りますが、生徒たちの運用・管理の仕方にかかっている部分もあるようです。 学校施設で、それも生徒たちが薪をくべるという方法で運用される薪ボイラーは、全国でも導入事例がないため多くの木質バイオマス関係者からも注目を集めているとか。「地元の山の木を活用できるとなれば、興味を持つ地域も多いはず」と鴇田さんも期待を寄せます。 古くから林業の拠点として栄えた飯能市に位置し、近隣に煙などの配慮をする必要のない、山に囲まれた場所に立地する自由の森学園だからこそ導入できたという面もあるでしょう。とはいえ、この薪ボイラープロジェクトが、エネルギーの地産地消が全国に広まる一助になることを期待したいところです。地域を結び、安心をつなげる、木の新しい在り方の始まりとして完成直前のボイラー棟前にて、現場監督である有限会社みやび設計の吉野雅一さんと。

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