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「学びの喜び」を届けるその先に 5月の第3週からは、Zoomを活用したリモート授業も開始されました。「当初は反対の立場でしたね」と語るのは、数学科の松元大地さん。「数学の授業でよくある、定理を教えて例題を出して『解いてください』という進め方でしたら可能だと思いますが、私たちはそうではない進め方を日頃から心がけてきました。生徒から出てこない限り、教員から解き方を教えることはないですし、そこをいかに生徒から引き出すか? というやり取りに心を砕いてきた。その自分たちのやり方が壊れるのではないかという怖さが拭えなかったからです」。 しかしその思いは、JIYUTubeの動画を作ってみたことで解消され、そこに可能性を見出したといいます。 「1本目に『ナスカの地上絵を描く』という動画を撮ったのですが、そこで“いけるかもしれない”と思うようになりました。ビジュアルで展開していくやり方は、むしろ従来の数学のイメージを変えていけるという実感を得ることができたんです(松元さん)」。 そして数学科では、Zoom授業を始めるにあたり「目の前で数学が起こっていることを実感できる授業をつくろう」「問題を解いてもらうような授業はやらないようにしよう」という、2つの約束事をつくったそうです。 今やるべきことは、生徒たちに『学びたい』という気持ちを持ち続けてもらうこと。登校できるようになったら、みんなでこういう学びに取り組みたい、 と思ってもらうことだと考えたといいます。「リモート授業でもこれだけ楽しいんだから、実際に学校に行ったらもっと楽しいだろうと期待してもらいたい、ということに徹しました(松元さん)」。 一方、リアルな授業にはない均一化されたZoomの空間では、順調に行きすぎてしまうという問題も、すぐに浮き彫りになりました。 「Zoomの方が、授業がスムーズに進むこともあるのですが、ボソッと予想外の発言をする生徒がいて流れが止まるようなハプニングが起きにくいですね。そうした立ち止まる時間こそが、授業を面白くしてくれる大切な要素だと思っているんです(菅間高校教頭)」。どんな状況でも私たちの教育であり続けること 遅れたカリキュラムを進めるためにオンラインを活用するのではなく、あくまでも生徒の学びに向き合う気持ちを中心に置いて考える——。 それはJIYUTubeにもZoomの取り組みにも言える、軸となるものだったのではないでしょうか。 そしてそれは、普段から教員一人ひとりに「生徒と向き合い、教えることを模索する自由」があり、それを足場にした授業に取り組み続けていたことに起因するように思います。 オンラインの取り組みがあったからこそ、リアルでの授業が渇望され、ホームルームが感動的にさえ思えたとの教員の声も聞かれました。 「授業が再開されたとき、目の前に生徒たちがいるのがとにかく嬉しかった。同窓会で久々に友人に再会したような気分でした(美術科 川上さん)」。 「登校開始後、クラスのみんなが目の前に揃っているのを初めて見た時、『この時のために動画やリモート授業をやっていたんだ』と強く思いました。授業の後の疲れ方も、リモートとは全然違う。充実感のある疲れが嬉しかったです(体育科 宮内さん)」。 「君たちに伝えたいことがあるんだ」という教員の思い。「生徒の学びのために何ができるか」を考え続ける姿勢。環境の激変を強いられても変わらないそのあり方に、自由の森学園の教育の根幹にあるものを、関係者の多くが実感できたのではないでしょうか。Zoomによる授業を模索する教員たち。一方向の取り組みになりがちなオンライン空間の中で、いかに対話や問いかけを紡ぎ上げていくか、工夫を重ねていく。一斉登校が開始された7月。校舎に生徒が集う姿を見て、多くの教員が、「改めて学校は生徒たちが作り出している空間なのだと感じた」と話す。

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