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7多くの生徒が準備を進めていた高校卒業式 自由の森学園の行事は、基本的に生徒たちの手でつくられます。卒業式も例外ではありません。在校生有志による卒業式実行委員会が企画から進行、会場づくりまで、そのほとんどを手掛けます。 今年のテーマは“コウノトリ”でした。テーマをどのように決めるか? という流れにも、決まりはありません。「今年は高1と高2の学年集会を開いて、皆で話し合って決めました。実行委員会で決めてしまう年も多いのですが、送り出す主体である在校生にも伝わり切っていないような気がしたので、今年は全員で決めたかったんです」と話すのは、卒業式実行委員会の委員長だった、高2の柴田真凜さん。多くの在校生の、主体的な関わりの中で卒業式をつくりあげようとしていたことが、伝わってきます。 卒業式には、必ずこれをしなければいけないという決まりはありません。しかし「1人ずつ行われる卒業証書授与」や「10曲以上歌い続ける合唱」、「卒業生や在校生の言葉」などは毎年踏襲されているプログラム。さらに約1時間を費やして、卒業生と在校生が入り交じって言葉を交わす「別れの広場」も、定番になっているプログラムのひとつでした。 実行委員会の企画係長だった高2の渡邉栞さんは、「今年は、別れの広場に卒業生の写真をスライドショーで流そうと思って、すでに映像も作っていました。高3の合唱音源もその映像に重ねようと思っていたところだったのですが……」と話すように、式に向けた準備は着々と進んでいました。> 2月27日首相の全国一斉休校要請で事態が大きく動き始める 卒業に向けた流れが大きく揺らぎ始めたのは2月27日のこと。この日安倍首相は、新型コロナ対策として全国の学校に一斉休校の要請を出したのです。「実は、その前からこの騒動を踏まえた、規模縮小の可能性があるという話は聞いていました」と語るのは、実行委員会で議長だった高2の阿部高秀さん。その話を受けて検討を進めていたものの、目に見えない脅威に実感はなかったとか。とはいえ、休校要請によって事態は一気に緊張感を増したと言います。 「3月2日から春休みまでを休校とする」という要請をそのまま飲み込めば、卒業式はもちろん、生徒たちが学んできたことを発表する「学習発表会」も、中止になる可能性が高まってきました。 卒業をつくる機会が危ぶまれる事態に声を上げたのは、高3の阿部大地さん。この日、「学習発表会や卒業式は、この学校にいる多くの人たちにとってとても大切な行事。これらの行事がなくなると、学園生活の区切りをつけることができずに学園生活を終わらせてしまうことになる」という内容をFacebookに投稿。この投稿は広くシェアされ、学内外の多くの人に読まれました。 大地さんによると、学園の生徒たちだけでなく、大人からも多くの反応が寄せられたといいます。「安倍首相の休校要請をラジオで聞いていろいろな思いが渦巻きましたが、休校にするにしても、生徒である僕たちにもその責任を取らせてほしいという思いで、あの投稿をしました。卒業式や学習発表会を中止にするにしても、それは苦しい決断になる。その苦しさを教員だけでなく自分たちも分かち合いたい。僕たちの声も聞いてほしいという一心でした」。> 2月28日 朝生徒たちの意見を踏まえ卒業のカタチが縮小へ 大地さんはSNSへ書き込んだ思いを書面にして、朝一番で職員室へ持参しました。それを受けた職員会議では、生徒のみんなの声を聞いて考えようということになり、急遽開かれた高3の学年集会では、多くの生徒が意見を表明しました。 「卒業式がないと卒業したとは思えなくなる」「絶対やりたい」という声が上がる一方で、「感染によって人を殺す可能性がある行動はしたくない」「万が一の時には学校つぶれるんじゃないの?」という慎重な意見も聞かれました。 こうした意見を踏まえて、決められた学園の方針は、3月3日からの休校と学習発表会の中止。そして卒業式の大幅な縮小でした。それは新井達也校長の声で全校放送によって流され、生徒たちの耳に届きました。大地さんが「いつもより、か細くて悲しそうな声だった」と感じたというその放送に、異を唱える者はいなかったそうです。実現できなかった生徒主導の「学習発表会」 中止が決まった学習発表会の実行委員を務めていた高3の岡本瑞綺さんは「卒業をどうつくればいいのか分からなくなった」と言います。「私は、お互いの学びや得たものを見合う学習発表会が好きで、今年はもっと充実したものにしたいと思って実行委員を立ち上げました。ところが、本番目前で中止になってしまった。みんなで意見を出して決めた決定は引き受けたいのだけど、『やっぱりやりたい!』という気持ちもぬぐえず、ずっと混乱したまま…… というのが本当のところでした」。2月27日。日常をひっくり返す突然の休校要請

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