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自由の森の春を切り取る 扉を開けて外に出ると、穏やかな春風に包まれるこの時季。そんな気持ちのいい季節も、今年は思うように味合うことができなかったり、少し不安もあったり。それでも自由の森を囲む「ヤエザクラ」は穏やかな陽気に気を緩ませ、今年も変わらずに花をつけ始めています。4月の中頃から終わりには、幾重にも重なった花びらが大粒の珠となり、学園は春色に包まれます。 そんな春色に染まる少し前、花びらを覗かせる頃のつぼみを私たちはおすそ分けしてもらい、塩漬けにします。摘んだつぼみは水で洗い、水気を拭いて梅酢に浸けます。 この梅酢も食堂の自家製梅酢。夏の梅干しづくりの時に出るものをこうして余すことなく使います。1日から2日浸けると、ヤエザクラの色もあざやかに。浸けた後は梅酢を切って陰干し。こちらも1日から2日干したら塩をまぶしてビン詰めし、塩漬けにして保存します。これをおからクッキーの生地に練り込めば、春の香りが口に広がるおやつに。刻んで菜花と一緒にご飯に散らして、春色のさくらご飯に。さくら茶にすれば、気の張った心身を和らげ、ホッと一息できる瞬間になります。 つぼみを摘んでいると、通りかかる子どもたち、先生たちも「なになに?」と興味津々。そこでのちょっとしたやり取りは、食堂のご飯と自由の森の季節が繋がる瞬間であり、また私たちの手仕事が伝わる貴重な瞬間でもあり、うれしくなります。 自由の森で2年、3年と過ごす間にいつしか見慣れてしまうような、そんないつもの風景を切り取り、いつものご飯、いつものお菓子に混ぜてちょっと特別なひと品に。ひと口食べれば、これまで過ごしてきたこの土地を、“いつも”見てきたこの風景を、身体の外と内の両方から感じることができそうです。 ときには外に目を向け、空を見上げ、足元を見渡してみる。そんな時間は、食堂のご飯が自由の森での生活、環境、空間を形づくるひとつになっている、そう思い起こさせてくれます。 自由の森が彩る季節に寄り添い、私たちが過ごす環境をふと気にしてみるきっかけにもなるようなご飯づくりを。そんな思いを描きながら、食堂のご飯を食べる日常が一日でも早く戻ってきてほしい。この春を待っていたヤエザクラのように、一日一日を待ち続けています。河野 翔 (自由の森学園 食生活部)14

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