morinoat_29
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1010そして開場〜合唱へ 会場の入り口には、教員が学外から借りてきた「次亜塩素酸加湿器」を多数設置。保護者の皆さんも入場時に手を消毒し、卒業生は間隔を空けて座る。扉はすべて換気のために開け放たれたまま。できる配慮を徹底して、卒業式が始まりました。 式の冒頭、新井校長が証書を読みあげ、全員に向かって授与をするかのようなゼスチャーをすると、大きな拍手に包まれました。一人ひとりへの授与は、クラスごとに式の後で教室で担任から受け取るかたちになりました。 やがて訪れた、注目の「1曲のみ」の合唱。「My Way」は、言わずもがな、可能性にあふれた一人ひとりの門出にふさわしい選曲です。その合唱が始まる前の静寂は、誰かがそう声に発した訳でもないのに、全員が「ここにすべての想いを込めよう」と集中している、強い意志を感じる静けさでした。 会場に響き渡ったのは、おおらかに解き放たれる、いつものどこか無邪気な雰囲気とは少し違う歌声。「この1曲に想いのすべてを注ぎ、みんなの声をもれなく身体に取り込みたい」という、感情豊かでありながらも、意志がみなぎる歌声が会場を包み込む——。 生徒も教員も保護者も、立場関係なく学校は、その時そこにいる人たちのもの。これからも——。大勢が「この時間をいつまでも噛みしめていたい」と思ったであろう、今回の卒業式の中でもピークのひとつともいえるひと時だったのではないでしょうか。 合唱が結ばれると、涙をふく保護者が多く見られる会場から止むことのない万雷の拍手。それはやがてアンコールを期待する拍手に様子を変えていきましたが、この時、理性的だったのは卒業生達の方でした。朝の学年集会で「最後の繰り返すところ、エンドレスにリピートしちゃおうかな〜」と冗談を言って、生徒を笑わせていた伴奏の教員も、静かに曲の終わりを噛みしめて、ゆっくり両手の指先を鍵盤から離しました。卒業式を終えて 「聴いていた人から『1曲だけでも何曲も聞いたのと同じくらいパワーがあったよ〜』と言われました」と、スッキリした顔で合唱を振り返ったのは、卒業生となった阿部大地さん。卒業式全体についても「規模は縮小されましたが、その過程で僕たちが考えたことに向き合ってくれたことがとにかくうれしかった。満足はしていませんが、消化することができました」と前を向きます。 「前代未聞の困難な状況でしたが、そんな中でも教員が私たちの声を真摯に聞いてくれた。意見を受け止めてくれる、突き放さないという安心感がこの学校のいいところだと思います」と話すのは、同じく卒業生の岡本さん。  「学校は、その時そこにいる人たちのもの。卒業する人がいて、新たに入ってくる人がいる中で代謝を繰り返す生き物のようなものですよね。卒業をつくることで私たちは代謝される。自由の森には、これからもそれを繰り返して変化していってほしいと思います」。 感染症の拡大防止という、かつてない問題に直面した今年の卒業式。限られた時間で、多くのことに対応を求められた状況において、自由の森学園では、生徒と教員が意見の交換を重ねてひとつの結論を出すことができました。 何が正解であったのか、現時点で判断することは誰にもできません。しかし、今回の経験は当事者の卒業生や在校生、そして学園にも、多くの学びを残したのではないでしょうか。

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