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8員の渡部さん。 英語科教員の大平さんもうなずいてこのように語りました。「いただきますという感謝の言葉がありますが、正直言って日々の生活の中で形骸化していることが多いですよね。僕は自分がそうだと気づいた。食べる喜びや自分の命が、ほかの命を犠牲にしてなりたっていることを思いながら食に向かう姿勢は、あらためて大事だなと感じました。ある参加者の『ほかの命をもらっているんだから、自分をもっと大切にしないと』という言葉にハッとしましたね」。 生徒たちはこうした命と食の関係を発展させて、食にまつわる社会的な課題へとより深く目を向けるようになります。ある生徒は日本のフードロスについて考え始めました。たくさんの食べ残しを家畜のエサや肥料にして循環できないかという疑問から、循環のハードルとなっている社会の仕組みや考え方へと関心を移しています。非ネイティブの中で苦手の壁を壊す 国籍や言語を異にする人々との協働から、異文化コミュニケーションについて得ることも多いようです。大平さんは、多くの生徒たちがもつ、根強い外国語コンプレックスを指摘します。つたない英語で交流しあう中にある優しい関係「自由の森の英語科では、単語や文法の暗記よりも話の中身が重要だと伝えているのですが、いざ話すとなったときに『これでいいのかな』って立ち止まってしまう子が多い。きれいに発音しなければいけないとか、文章が合っているかというところで考え込んでしまうんですね。直接的な言い回しを知らなかったら、似たような言い方や自分も知っている単語で、相手に伝わることを主眼に柔軟に対話するよう頭を切り替えてみてもいいと思うのです」。 アジア学院での公用語は英語。しかしここでは日本人スタッフも含め、ほとんどの学生が非ネイティブスピーカー。その分、誰もが相手のつたない英語を受け入れ、理解しようと待ち構えてくれます。そうした環境に身を置いていると、次の一歩を踏み出せる生徒が増えたと大平さんは喜びます。「今回初めて参加した中学3年生が、作業を通して親しくなった学生さんにメッセージを書いた鶴を折って渡しました。人としてつながりができたことをうれしそうに話す姿に成長を感じて、こちらもうれしくなりました」。 勇気を出した意思表示が受け入れられる感動は大きいもの。自分のコミュニケーション力や語学力の定点観測をするように4年連続で訪れるリピーターの生徒も現れました。農場での協働が、生徒たちが知らずしらずのうちに内面化してしまった正解主義の壁を壊す機会になっています。30以上もの仕事を経験したのち、2011年に自動車ディーラーから転職。現在は外部プログラム担当として、イベント企画やPR、オンラインショップの運営など多様な業務に携わっている。山下 崇さんアジア学院募金・国内事業課セクションリーダー左)渡部 典弘/自由の森学園社会科教員。高校2年を担任。2018年度から体験学習の担当となり、7月に初めてアジア学院での生活を体験。第一子誕生を控え、あらためて生や食の問題に向き合った。那須塩原出身で扇状地の開墾などにくわしい。中央)大平 雄太/自由の森学園英語科教員。同じく高校2年を担任。アジア学院へは渡部さん同様、今回が初訪問。フレッシュな感想が語られた。食べることが好きなだけに、ほかの命を犠牲にするありがたみをずっしりと受けとめたという。

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