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13是恒 さくらさん〈17期生〉1986年広島県生まれ。自由の森学園高等学校卒業後、アラスカ大学にて、先住民芸術、絵画、彫刻を学び、2017年東北芸術工科大学大学院修士課程地域デザイン研究領域修了。2018年より東北大学東北アジア研究センター学術研究員。アラスカや東北各地の捕鯨、漁労文化、海の民俗文化についてフィールドワークと採話を行い、リトルプレスや刺繍、造形作品として発表。2016年より、リトルプレス『ありふれたくじら』を発行(Vol.1~5既刊)。美術家。解しようとする。そこを短縮すると、理解の“ほころび”が生まれてしまう気がするんですよね。 また、よく驚かれますが、取り立ててクジラそのものが好きな訳ではありません。先に挙げたようなクジラを介して人々の間に起きる現象が、興味深く感じたからなんです。アラスカの先住民に魅せられて 自由の森学園時代、木の椅子を1年かけてつくる美術の時間で、手作業を通して自分の視点を開いていく感覚を掴んだ気がしています。 また、生物の授業で出会った写真家の星野道夫さんの本は、今の生き方の入り口になっているように思いますね。アラスカ先住民について書かれた本で、もともとトーテムポールは、先祖の歴史や神話を彫ってゆかりある場所に建てるものだと知ったのです。やがて木が朽ちていきますが、最終的に木が土に還るときに、その場所が特別なものになるのだそうです。まさに生と死という大きな循環の中で息づいている芸術だと知りました。 卒業後はアラスカ州立大学の先住民芸術コースに進学しました。木彫りや、動物の毛皮をなめして民族衣装を作ったり、アラスカ先住民の家でフィールドワークをしたりする場です。クジラをテーマにした作品をつくろうと思ったときに、手縫い制作を選んだのは、 この時の経験が大きいですね。テキストとテキスタイル ここ数年、刺繍作品の写真と、各地で聞き取りした話をもとに綴った文章を編集して、リトルプレス(自費出版)として刊行しています。タイトルは《スーパー・ホエール》の反意語として『ありふれたくじら』と名付けました。 実は、文章(テキスト)と布地(テキスタイル)って、同じ語源なんです。言葉を織るとテキストになって、糸を織るとテキスタイルになるのは、同じ動作からきているから。クジラという生き物に対しても、例えば食べる対象なのか、信仰の対象なのかによってまったく別物になるし、本当はもっと別の何かかもしれない。刺繍作品と聞き取りの文章を綴ってリトルプレスを発行することによって、さまざまな境界線をまるでクジラのように回遊することで、新しい物語やイメージを編み上げ、テキストとテキスタイルが重なり合う場所を探しているのかもしれません。

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