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1010する仕組みがつくられていました。10人ほどの生徒からスタートして、いまでは小学生から高校生まで100人近くが集まり、街からも視察が来るようになったとか。こういう実例があると我々も励みになりますね」。新たな課題に直面する日本の農業 ところで賢明な読者諸氏は、2ページ前の対談写真の背景が本棚なのにお気づきでしょうか? この部屋は図書室ではなく寄付された古本の保管庫です。収穫感謝の日やフリーマーケットで販売し、売上を奨学金の一部に充てています。 アジア学院ではより多くの学生に学ぶ機会を与えるため、海外からの渡航費や研修費をほぼ全額負担しています。その原資になるのがこうした物品の寄付や、サポーターからの寄付金、オンラインショップの収益金などです。入国のために借金を迫られ、人権侵害の温床となっている外国人技能実習制度(※1)などとは明確に一線を画します。 「アジア学院では、学生のことを英語でParticipant(パティシパント)と呼びます。日本語だと「活動の参加者」と訳されますが、一般的な外国人実習生と明確に区別したいと考えてのことです。外国人実習生への人権侵害。種子法の廃止。問われる農業の在り方 ここは学校ですから、学習のカリキュラムを濃密に組み、指導者論や開発論など1760時間を超える研修を供給しています。農場での学びも単なる労働や作業にならないよう常に考えています」。 アジア学院のある栃木県でも、イチゴ農家で実習生がパスポートを取り上げられ、劣悪な環境で労働に従事させられたことが報道されました。2018年8月には国連の人種差別撤廃委員会において、慰安婦問題やヘイトスピーチなどと合わせて技能実習制度の実態がきびしく追及されました。いま日本の農業のあり方が内外から問われています。 山下さんは、種子法の廃止(※2)なども気にかかっているようです。「知的財産権の保護という名目で商用の自家採種が法に問われる恐れが出てきました。アジア学院では栽培する米、大豆、野菜の半分を自家採種でまかなっています。商用ではないため影響は少ないとみられますが、有機農法に取り組む地域の人たちと種子法廃止に対抗する条例づくりに携わっているんです」。今後は選択講座とのコラボレーションも 自由の森学園で体験学習を経た生徒が、数年後に日本人学生となって循環型農業を学びなおしたり、ボランティアに参加したりと、アジア学院での体験が、高校卒業後の進路の選択肢にも影響を与えているといいます。この関係を活かして、さらに新たな学習活動も期待できるのでは? と社会科の渡部さんに問いかけてみました。 「今回初めて引率させていただきましたが、2泊3日ではもったいないと感じました。もっと長く滞在できるスタディツアーを組んで、さらに深い体験を積む機会を作らせていただけるといいな、と思っています。また、今年から理科と選択講座『農業』が、共同で『種』という新しい選択講座を始めました。ぜひ山下さんに自由の森にお越しいただいて、ゲストスピーカーとしてお話しいただけたら、より多くの生徒にここで味わえることの一部でも伝えてあげられるなと考えていました。いろいろな垣根を越えて、共に学びを広げていければ」と、渡部さん。山下さんもニッコリと快諾してくださいました。 アジア学院と自由の森学園の新たな取り組みが、双方の学生と生徒の学びとなり、やがて社会を豊かに耕すことにつながっていくーー。そんな期待ができる結びつきがまた新たに始まりそうです。※1 外国人技能実習制度発展途上国などから来日する外国人が、技術・技能などの実践的錬成に相当の期間を要する職種について、一定期間の研修を受けられる制度。本来は国際貢献の一環だったが、研修生は労働基準法の対象外であることから、最低賃金以下での強制労働や、妊娠した女性が帰国を迫られるなどの不当な扱いが問題となっている。※2 種子法の廃止米、大豆、麦類は、種子法のもと各都道府県がそれぞれの土地の気候や特性に合った多様な品種を開発・生産してきた。しかし今後は予算が確保されなくなり、生産規模の小さい銘柄が大企業の販売する「F1種(一世代に限り、一定の決まった形質を持つことができる種子)」に置き換わっていく恐れがある。利益の少ない種子は、農薬・化学肥料をセットにして販売される可能性が高く、健康被害や環境破壊の危険性も指摘されている。

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