morinoat_26
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1010と政治教育と聞くとすぐに政党やイデオロギーに結びつける人がいるけれども、政治って自分たちの暮らしに直結している以上、専門家だけに任せるのではなくて、もっと気軽にもっと自由に語っていく問題じゃないかと。小玉:政治というのは正解のない世界なので、先ほどの東大生の話じゃないですが、間違いを指摘されることを恐れて発言を控えるような人にとっては苦手なものに感じるかもしれません。投票率も高校生は高いけれども卒業するとガクンと下がってしまう。しかし今後の世の中の流れは、答えのない問いとしっかり向き合って自分なりの考えを深め、専門家でも意見が分かれるような問題に果敢に取り組むことが重要になります。生徒の研究報告や政治家に手紙を書くというのも大切な活動だと思います。菅間:一方で、生徒に地毛証明書(※4)を出させる高校があったり、ゼロトレランス(※5)を採用したり、多様性や主体性と真逆の教育も公然と行われている現状があります。そんな日本にもシティズンシップは根づくのでしょうか。小玉:高度成長期は企業や官公庁が主導し、私たちがそれに適応していく社会だったと思いますが、終身雇用なども含め高度成長期型のシステムはもう崩れていますよね。東大ですら最近は「多様性」教育が多様化する社会の中で、新しい学校のイメージを共につくるとか「インクルーシブ」という言葉を使い始め、市民社会とつながってパブリックな議論を起こしていくという方向に変わってきています。実際に東日本大震災以降、原発問題などで市民が主導して議論を作ったり、女性のMeToo運動が盛んになったりしています。ただ若い層が比較的リベラルな欧米と比較すると、自分たちが置かれている状況に対して意見を持っている人が少ない印象です。今後はさらに自分たちが主体的に行動するためのスイッチが必要になるし、自由の森学園がそのスイッチのひとつになり得ると期待しています。菅間:ありがとうございます。とはいえ、自由の森のスタイルを他の学校に予定調和的に拡大させるのは、容易ではないですね。小玉:やはりネットワーク的にリゾーム(中心を持たず、横断的な横の関係で結びつくさまを表す概念)のように広がっていくことが望ましい。その媒介として大学があり、東大の教育学部をひとつのクッションにして問題意識のある先生や管理職の先生方に響かせたいですね。教育という制度そのものがこれからかなり多様化していきます。インクルーシブ教育など、一人ひとりと向き合いながらともに学ぶ教育を改めて考え直す時期を迎えています。自由の森との連携を通して新しい学校のイメージを創造できればと思っています。菅間:最先端の教育研究をしている東大と、臨床的に現場で実践・研究している僕たちが、子どもたちになにをどう教え、学んでいくべきか。独りよがりにならないよう市民社会の力を借りながら、答えのない道をともに歩んでいければと思います。今日はありがとうございました。※4 地毛証明書一部の高校において、入学時黒髪ではない生徒や、ウェーブのかかった頭髪の生徒などに対して、生まれつきの髪質であることを確かにするため提出を求める書類。保護者の署名や押印などが求められるほか、一部では幼児期の写真の添付を求める学校もある。※5 ゼロトレランスtolerance(寛容)がゼロ、つまり不寛容。軽微な規律違反でも厳格に罰することで、重大な違反を未然に防ごうとする考え方。もともとは、不良品を厳格に検査する産業界の用語に起因する。

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