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7あえて目標は決めないんです。そのうち変わっちゃうかもしれないんでワインバーグ(※3)がいる大学に行くと聞いて、すごく興奮しました。安野には大きなジャンプに向かって助走できるセンスがあるんだろうね。未来のアイデアが生まれる環境を用意したい石原:今後、次世代の研究者に研究しやすい環境をつくっていくことにも力を入れたいと思います。正確なデータがとれる装置を開発したり、研究の時間を確保したりして、学問を楽しみながら新しいアイデアが生まれる環境を用意したい。あと女子学生を増やすのも課題ですね。ニュートリノについては、より多くのデータを獲得するための、高性能の検出器を開発中です。検証に時間がかかるので、実際に使うのは、まだまだ先の話になると思います。他にも手がけたいテーマはたくさんありますが、あえて目標は決めないんです。そのうち変わっちゃうかもしれないんで。伊藤:それまで、地上界と天上界というまったく別の世界と考えられていたものが、実は同じ法則を持ったひとつの世界だと、Newton が解いたという授業だね。石原:その頃数学では微分をやっていて、物理の力学の話と重なってもっと惹きつけられた。数学そのものはあまり好きになれなかったけれど、宇宙のような抽象的な世界が数学によって具体化されることがわかって、がぜん面白くなりました。伊藤:理科は、決定的に特別なんじゃないかと思うんだ。他教科の学びは人間が誕生してから後に生まれたものが相手だけれど、理科は人間が生まれるずっと前からある「自然」が相手だよね。人間のすることは自分とつなげて考えやすいけれど、自然がすることを考えるのは難しい。そこに、人間を超えたものと対峙するという世界が生まれる。宇宙の未知を知るという科学、その未知を計算するという数学も、そこから生まれてきたのだろうと思います。石原:そう、両輪になっているから、どちらかしか理解しないというのは、ちょっともったいないですね。伊藤:高校卒業後には、東京理科大学に進学しましたが、当時はどんなことを考えていたのですか?石原:漠然と「研究かモノづくりかなあ」という選択肢の中で、じゃあ研究で、っていう感じで。今もそうですが、考えているのはいつも目先のことばかりなんですよ。先のことは、まあなんとかなるだろうって感じで、今も結構曖昧です。伊藤:といいながら、その後にはテキサス大学の大学院に進んだでしょう。僕の憧れの物理学者だったスティーヴン・伊藤:目標を決めないって、意外と大事かもしれない。目標がプレッシャーになって、そこに向けて物事をコントロールしたくなる。それよりも目の前の物事にニュートラルに向き合うことで、なにかが見つかることもある。「目標」じゃなくて「チャレンジ」というのがいいのかな。「チャレンジ」、自由に舵とりできる高揚感がある。石原:あ、いいですね。そんな感じです。伊藤:安野はいま、僕が行くことのできなかった物理の最先端でチャレンジをしていると思っているんだ。僕はその姿を見て、一緒にワクワクできることが、とても嬉しい。これからもぜひ一緒にワクワクさせてください。今日はありがとうございました。石原:はい、頑張ります! ありがとうございました。※3 スティーヴン・ワインバーグ:1933年生まれのアメリカの物理学者。学問の表層的な潮流にとらわれることなく、現象の本質を捉える学者として広く評価される。著書『宇宙創成はじめの3分間』(筑摩書房)は、ビッグバンの謎について、一般の読者にも楽しめる内容にまとめられた名著。1979年にはノーベル物理学賞を受賞。

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